わけぎのぬた和え、酢のもの
今日はわけぎ(分葱)のぬた和えを紹介します。わけぎは主に関西よりも西で生産されており、関東より北の地域の方にはなじみのない野菜かもしれませんね。
わけぎはネギ属に分類され、ねぎと玉ねぎ(エシャロット)の雑種だといわれ、エシャロットのように根元部分が球根状に膨らんでいます。名前だけでなく姿も似ている「分け葱(わけねぎ)」と混同されますが、わけねぎは葉ねぎの一種で種ができますが、わけぎは種ができず分球によって増えます。
わけぎは香りが穏やかで辛みも少なく甘みがあります。ぬた和えはそんなわけぎの特徴をうまく生かした料理といえます。普通は下処理した魚介類や海藻、野菜などを辛子酢味噌で和えた料理のことをいい、「沼田」とも書きます。沼のようにぬかるんだ田を連想することからそう呼ぶようになったようです。
しかし、料理人が作るぬた和えは、ぬかるんでいては失格です。作り置きのぬた和えやお惣菜として売られているものが水気が出てだれた状態で、わけぎの緑も酢で変色しているのをご覧になったことがあると思います。これではおいしさは半減します。
プロはわけぎを茹でた後、麺棒などでしごいて、わけぎの中にある特有のぬめりを程よく取って使います。さらにお客さまに出す直前に辛子酢味噌で和えるので色もよく、ぬかるんでおらず味もボケていません。
料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。彼らはわけぎのぬめりを徹底的に除いて使います。そうすると時間が経過しても水気が出てだれないからです。
しかし、ぬめりを取り過ぎると繊維だけが残り、堅い食感で旨みも抜けてしまいます。ぬめりの適度な除き方がおいしいぬた和えのもう一つのポイントなのです。
除いたぬめりを、上の写真のように焼きねぎにかけて、揚げねぎを添えれば稀少な珍味になります。ぬた和えを盛った上に少量ずつかけてもよいでしょう。
ぬめりには免疫細胞を活性化させる働きがあることもわかっています。私の老化した脳細胞も活性化するでしょうか?(笑) 野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「わけぎのぬた和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・わけぎは、根元の白い部分と緑の部分に均一に火が入るように茹でる。
・茹で上がったわけぎは水に放さずに塩をふって急冷し、ぬめりを適度に除く。
・酢味噌は酢だけでなく、橙(だいだい)やレモンの絞り汁も加えることでマイルドな酸味になる。
・旬の橙の皮の芳香を加えると絶品になる。皮の白い部分を除き、橙色部分のみをみじん切りにしてふりかける。残った橙の皮は、同様にみじん切りにしてオーブンペーパーなどに広げて天日干しすれば、陳皮として使える。
・「わけぎの酢のもの」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・ぬた和え同様に食べる直前に酢醤油で和える。和えて時間が経過すると、水分が出て味も水っぽくなる。
・一味唐辛子は和えるのではなく、最後にふりかけたほうがメリハリが出ておいしい。
「わけぎのぬた和え」(左)
【材料(2~3人分)】・わけぎ 2本
・塩 少々
・油揚げ 1/3~1/2枚
・わかめ(水でもどす) 5g
・赤こんにゃく(黒こんにゃくでもよい) 5g
こんにゃくの煮汁:出汁100cc、濃口醤油小さじ2、みりん小さじ1
・辛子酢味噌 35g
玉味噌(白)30g(作りやすい分量:西京味噌500g、卵黄5個分、砂糖30g、日本酒200cc 「
生姜味噌」参照)、橙果汁(レモン汁でもよい)小さじ1/2、酢小さじ1/4、練り辛子5g
・カシューナッツ(刻む) 適量
・橙 適量
【作り方】1.わけぎは洗って根の部分だけを切り落とす。大きめの鍋に湯を沸かし、わけぎの先部分を持って根元の白い部分を先に湯につけて30秒ほど茹でる。白い部分がくたっとしてきたら、全体を40~45秒ほど茹でる。火の通りが均一になるように落し蓋をするか、途中で1~2度上下を返す。
2.茹で上がったわけぎは水に放さず、ざる上げた後に、大きめのバットやまな板に並べて塩を薄くふる。根元が下になるようにバットを傾け、扇風機やうちわであおいで冷ます。
3.冷めたわけぎをラップで包む。まな板に横に置き、白い根元部分を麺棒で軽くたたいて繊維をほぐす。葉から根元に向かって麺棒を転がし、軽くしごくようにしてぬめりを出し、2.5cm長さに切る。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
4.油揚げはオーブントースターで両面をこんがり焼き、1cm幅×2.5cm長さに切る。わかめは水でもどし、水気をきって食べやすく切る。赤こんにゃくは5mm角×2.5cm長さに切って下茹でする。こんにゃくの煮汁で10分ほど炊いたら、20分以上おいて味を含ませる。
5.辛子酢味噌を作る。ボウルに玉味噌(白)を入れて橙果汁と酢を加えて混ぜ、練り辛子を加えて混ぜる。
6.ボウルにわけぎ、油揚げ、わかめ、赤こんにゃく、カシューナッツを入れて混ぜる。辛子酢味噌を加えて全体を和えて器に盛る。橙の皮の橙色の部分のみをみじん切りにしたものをかけて供する。
「わけぎの酢のもの」(右)
【材料(2~3人分)】・わけぎ 2本
・塩 少々
・白こんにゃく(黒こんにゃくでもよい) 20g
こんにゃくの煮汁:出汁100cc、濃口醤油小さじ2、みりん小さじ1
・酢醤油(濃口醤油1:酢1の割合) 大さじ1
・一味唐辛子 少々
【作り方】1.わけぎの下処理は「わけぎのぬた和え」の1~3と同じ。
2.白こんにゃくは5mm角×2.5cm長さに切って下茹でする。こんにゃくの煮汁で10分ほど炊いたら、20分以上おいて味を含ませる。下茹でしたこんにゃくをきんぴら風に炒め煮にして使ってもよい。
3.ボウルにわけぎ、白こんにゃくを入れて混ぜ、酢醤油を加えて和える。器に盛って一味唐辛子をかけて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。