〔解説してくださるかた〕長谷川直樹(はせがわ・なおき)先生慶應義塾大学医学部、感染症学教室 教授。1985年に慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学病院内科に入局。横浜市立市民病院、米国スタンフォード大学留学、国立南横浜病院等を経て、2000年慶應義塾大学医学部呼吸器内科専任講師に。2010年同大学医学部感染制御センター准教授、2014年から現職。日本呼吸器学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会 結核・抗酸菌症指導医、日本内科学会認定専門医。検査で発見しやすくなり、近年注目が集まる感染症
非結核性抗酸菌症は、「結核菌ではない抗酸菌」(NTM/エヌティーエム)に感染することで、肺や気管支が壊れる病気です。主に肺に症状が出るため、一般に「肺NTM症」と呼ばれます。
この感染症は、かつては結核に続発する感染症と認識されていました。肺NTM症を長年研究し、治療に携わっている慶應義塾大学医学部感染症学教室教授の長谷川直樹先生は「この感染症が周囲の人には感染しないと考えられていること、また、症状がない場合もあり、進行がゆっくりであることから、公衆衛生学上も感染症学上もあまり問題にされてきませんでした」と語ります。
とはいえ、健康診断や人間ドックの肺の画像検査(特にCT検査)で発見される例が増えてきたこと、基礎疾患のない人にも発症すること、長年経過すると肺の構造破壊が進み、死亡する例もあることなどから注目されるようになってきました。
長谷川先生らが2016年に発表した研究結果では、2014年には肺NTM症と新たに診断された人の数が2005年の2.6倍に増えて、同じ年の結核の罹患者数を超えていました。日本は疫学調査上は世界で最も患者数が多い国とされています。
健康な人でも感染していることがある
NTMは200種類以上あります。そのなかで人間に感染する主なものは10種類くらいです。いずれも自然環境や生活環境にいる菌です。
それらの菌に感染すると抗体ができます。長谷川先生らが慶應義塾大学病院の医療従事者を対象に調べ、2016年に報告した研究では、NTMの一部の菌(MAC/マック、後述)に対し、50代以上の女性の約2割が抗体を持っていました。
「感染した人すべてに症状が出たり、肺や気管支の構造破壊が起こったりするわけではありません。抗体が陽性でも画像検査では異常はみられず、喀痰(かくたん)検査で痰から全く菌が検出されない、症状も何もないかたがたくさんいます。NTMはどこにでもいる菌なので、感染する人はいますが、今のところ、感染した人がどのくらいの割合で発症するのかはわかっていません」(長谷川先生)
非結核性抗酸菌症(肺NTM症)の特徴
●どこにでもいる菌で起こる感染症
●周囲の人に感染させることはないと考えられている
●患者は中高年のやせ型の女性に多い
●健診や人間ドックの画像検査が発見の契機に
●咳や血痰がきっかけで見つかることもある
●無症状の人も多い
●進行はゆっくりだが、長年経過すると肺の構造破壊が進み、呼吸困難になる場合がある
●複数の抗生薬の服用で治療
●治療の開始時期は患者それぞれで異なる
次回:
40~60代女性に多い、身近な菌が引き起こす肺の病(肺NTM症)。感染経路や治療法は? イラスト/にれいさちこ 取材・文/小島あゆみ
『家庭画報』2022年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。