診察と検査を続けながら、抗菌薬で治療する
日本で見つかる肺NTM症は8〜9割がMACと呼ばれる2種類の菌によるものです。ここではMACによる感染症(肺MAC症)の治療について解説します。
肺MAC症は主として抗菌薬によって治療します。1剤だと効きが悪く、また耐性が出やすいため、複数の薬を併用します。さらに必要に応じて別の抗菌薬を追加します。
軽症であれば数か月に1回の診察と薬の調整を続けます。一方、肺の空洞化や気管支の変形がひどくなった重症例では抗菌薬による治療に加えて、場合によっては手術をすることもあります。
2021年に新しくネブライザーで1日1回吸入する抗菌薬が承認され、通常の薬による治療で痰のなかの菌が陰性化しない肺MAC症患者に適応になりました。
「この薬はアミカシンと呼ばれる抗菌薬で、もともとは注射薬でしたが、薬の成分を脂質の膜であるリポソームで包み、吸入用の薬剤にしたものです」。
これまで述べたように肺NTM症には未解決の課題も多く、菌は環境に広く存在するため、誰もが注意すべき感染症といえます。健康診断などで肺NTM症の可能性が指摘された場合には、呼吸器専門医の診察を受けましょう。
幸いにして多くの場合は進行が遅いので、必ず定期的な診察と画像検査や喀痰検査を受け、主治医と相談しながら病状を理解して、治療を決めていくことが何よりも大切なのです。
治療をやめるタイミングについても患者の病状、医師の考えによって、それぞれです。「症状がなく、痰に菌が出てこなくなっても体内に菌が残っている可能性や新たに感染する可能性もあるため、その後もフォローアップが必要です」。
非結核性抗酸菌症の肺MAC症の治療法
●3剤の抗菌薬(リファンピシンまたはリファブチン、エタンブトール、クラリスロマイシン)を毎日服用
●必要に応じて、ほかの抗菌薬を週2〜3回筋肉注射あるいは静脈注射
●難治例には吸入する抗菌薬が使えるようになった
治療を開始するタイミングは専門医とよく相談を
肺NTM症と診断された場合、「すぐに治療を開始するかどうかは、患者さんの症状、画像や喀痰の検査の結果、治療に対する考え方などによって、一人一人異なります」と長谷川先生は話します。
肺の画像検査で空洞がみられる場合、喀痰検査で痰のなかの菌量が多い場合には治療を始めることが一般的です。その際には菌の種類を確定し、抗菌薬との相性を確認します。
一方で、画像検査で肺の病変が軽度で、排菌量が少なく、症状が乏しい場合には「すぐに治療を開始せず、数か月に一度の経過観察を続けることが多いですね。10年以上無治療のままで診察を続けている患者さんもいます。なかには痰に含まれる菌が自然に消えてしまう例もあります」と長谷川先生。
いずれにしても定期的な診察と画像検査、喀痰検査を続けていくことが大切です。
非結核性抗酸菌症の診断・治療が得意な専門医
●日本呼吸器学会 呼吸器専門医URL:
https://www.jrs.or.jp/modules/senmoni/●日本結核・非結核性 抗酸菌症学会
結核・抗酸菌症 認定医・指導医URL:
https://www.kekkaku.gr.jp/certified_physician/
患者向けに情報提供やイベントを行う
非結核性抗酸菌症・気管支拡張症研究 コンソーシアム(NTM-JRC)
長谷川先生ら非結核性抗酸菌症の専門医が研究の推進、医療従事者や患者向けの情報提供を目的に組織した特定非営利活動法人 非結核性抗酸菌症・気管支拡張症研究コンソーシアム(NTM-JRC)。ホームページでは、患者向けの資料や動画が公開されている。
URL:
http://ntm-jrc.kenkyuukai.jp/special/index.asp?id=14890 イラスト/にれいさちこ 取材・文/小島あゆみ
『家庭画報』2022年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。