1月の野菜本膳、白菜の即席酢漬け(白菜三昧色即是空)
今日は1月の野菜本膳を紹介します。1月にお教えしたレシピを中心に、正月らしく、お膳は日の丸盆とし、独楽(こま)文の本膳皆具に盛りました。
献立は飯:
とろろかけ十五穀飯、汁:
ゆり根の白味噌仕立て、平椀:
野菜のせん打ちかぶら蒸し、坪椀:白菜の即席酢漬け(本日紹介します)になります。今日は坪椀の一品、白菜の即席酢漬けをお教えしましょう。
白、オレンジ、紫の白菜を3色三様の風味豊かな酢漬けにします。「
黒豆三昧」に続いての三昧です。三昧には一般的には我を忘れて何かに一心不乱に没頭している様子(例:読書三昧)、心のままに思う存分求めている様子(例:贅沢三昧)という2つの意味があります。一方、仏教における三昧はサマーディー(サンスクリット語)を音訳した言葉で「瞑想により、心を集中し動揺しない安定した精神状態になること」を意味します。白菜三昧は白菜料理を堪能し尽くすというところでしょうか。
今日は三昧にさらに色即是空という言葉を添えました。面倒くさい男で申し訳ありません(笑)。色即是空とは仏教の言葉で、現世のあらゆる物事や現象にはすべて実体はなく、空無であるという意味です。
3色の白菜を使いましたが、果たしてその色は本当に存在しているのか? 料理を盛りつけた透明の器(レシピ部分の写真参照)はその凹凸ゆえに存在が認識できますが、色はないのか? ものの表面に光が当たると、それぞれで異なった波長の光が反射され、他の波長は吸収されます。その反射された特定の波長の光が目に入って網膜細胞が刺激され、脳に伝わって色として感じられるということらしいのです。あらゆる色はすべて脳が作り出しているイメージで、物理的には存在せず、これは音や匂い、味、温度などにも当てはまります。
「
カリフラワー酒肴彩々」でお話しした小林東五先生の教え「料理も人生と同じく、味のない物(無垢なるもの)に煩悩により味つけし、料理(人生、人間)となる。甘い、辛い、酸い、苦い、鹹い(からい。しょっぱいという意味)の煩悩が料理であり、煩悩で作る」に重なってくる部分があります。
「そういう落ちかい」と思われたかもしれませんが(笑)、私は色のある野菜を目の前にするとどこかでそんなことを考え、「ではどう料理するか?」と自身に問います。
三昧の2つの意味には「他を顧みない」様子という共通点があります。小林東五先生のもうひとつの教えが私になすべきこと教えてくれます。「料理を作るにあたっては、その料理を食べる人に合う料理を提供する。森羅万象を悟り、移ろいゆくものを感じ、その人のために気持ちをこめて料理を作りなさい」
家族のために想いを込めて作る料理。想いは目には見えないので脳には伝わらないかもしれませんが、心には確実に伝わります。そんな野菜料理を家族と一緒に楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「白菜三昧(白菜の即席酢漬)」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・酢漬けにした白菜の葉元(白い軸の部分)と生の葉先(ひらひらした薄い葉の部分)を合わせることで、味と食感にメリハリが出る。
・葉先は食べる直前に酢漬けした葉元と合わせる。合わせて時間が経過すると食感が落ちる。
・各酢漬けにごまやしば漬け、りんごを加えることで風味と変化を加える。
「白菜の即席酢漬け」(右)
【材料(2人分)】・白菜(一般的な白菜) 120g
・白菜の葉先(オレンジ) 適量
・塩 適量
・酢 小さじ2
・いりごま(白) 小さじ1
・練り辛子 小さじ1/2
・サラダ油(好みで) 少々
【作り方】1.白菜は芯から葉を外してよく洗う。外葉に近い葉は筋が堅い場合があるので、葉元の先をつまんで筋と膜を除く。葉元の白い部分のみを三角に切り取り、柔らかい葉と分ける。三角に取った葉元部分は繊維にそって縦に5mm幅で切る。オレンジ白菜の柔らかい葉の部分は3cm四方に切る。「
白菜の即席漬け、煮浸し柚子こしょう和え」も参照。
2.縦に切った葉元部分をボウルに入れ、塩を全体に薄くかける。水分が出てしんなりしたら水気を絞る。重量が生の状態の半分くらいになる。
3.酢を別のボウルに入れて練り辛子を溶かし、2の白菜を加える。好みでサラダ油を少々加えてもよい。いりごまを加えてよく混ぜて器に盛り、オレンジ白菜の葉を添える。
「白菜の即席酢漬け(柚子酢)」(左)
【材料(2人分)】・白菜(オレンジ) 120g
・白菜の葉先(紫) 適量
・塩 適量
・柚子果汁 小さじ2
・酢 小さじ1
・柚子 少々
・りんご(紅玉) 少々
・サラダ油(好みで) 少々
【作り方】1.白菜の切り方と塩の仕方は、白菜の種類が替わるだけで「白菜の即席酢漬け」と同じ。
2.柚子は黄色い皮の部分のみをなるべく細いせん切りにする。りんごは皮付きのまません切りにする。
3.柚子果汁と酢をボウルに入れて混ぜ白菜を加える。好みでサラダ油を少々加えてもよい。よく混ぜて器に盛り、紫白菜の葉と柚子、りんごを添えて供する。
「白菜の即席酢漬け(しそ酢)」(中)
【材料(2人分)】・白菜(紫) 120g
・白菜の葉先(一般的な白菜) 適量
・塩 適量
・しそ酢(市販品) 小さじ2
・しば漬け 20g
・サラダ油(好みで) 少々
【作り方】1.白菜の切り方と塩の仕方は、白菜の種類が替わるだけで「白菜の即席酢漬」と同じ。
2.しば漬けはみじん切りにする。
3.白菜をボウルに入れてしそ酢を加えてよく混ぜる。好みでサラダ油を少々加えてもよい。器に盛り、白菜の葉と柴漬けを添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。