プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 白髪ねぎと芽ねぎの辛み和え、九条ねぎの辛み和え
今日は白ねぎ、九条ねぎ、芽ねぎの3種類のねぎを使います。一般的に西日本では緑の葉部分が長く枝分かれしていて葉先まで食べる「青ねぎ(葉ねぎ)」(九条ねぎ、わけぎ、万能ねぎなど)が、東日本では白い部分が長い「白ねぎ」(深谷ねぎ、下仁田ねぎなど)がよく食べられています。
左から九条ねぎ、白ねぎ、下仁田ねぎ、芽ねぎ。「
ねぎの丸焼き」では、素材が持つ甘さを味わう料理法をお教えしましたが、今回は青ねぎと白ねぎの両方でその辛みを生かした料理を作ります。
ねぎは切れば切るほど酵素が働いて辛み成分であるアリシンが多く発生し、辛みが強くなります。昔から風邪にはねぎといわれますが、ねぎを切った際に生じるツーンとするにおいの成分でもあるアリシン(ニンニクの主成分としても有名)を鼻から吸い込むと脳が反応して血管を拡張、血流を促し、体の抵抗力をアップさせるからだそうです。
「
焼きねぎと揚げこんにゃくの丸仕立て」で「焼いたねぎを首に巻く」という風邪をひいたときの民間療法に触れました。同じ首に巻くのなら焼いたねぎではなく、生のねぎをアリシンがたくさん出るように細かく刻んで布に包んで巻くほうが効き目がありそうですね。においをかぐだけでも体温がアップするという研究データもあります。
今回は生の白ねぎを細くせん切りにして芽ねぎと合わせ、おいしい酒の肴にします。芽ねぎは発芽して間もない全長6cm直径1mm程度の細いねぎで、柔らかくてシャキシャキとした食感があります。穏やかな香りと程よい辛みで生食に向いています。
今日の料理は思いっきり深呼吸をして香りを吸い込んだ後に食べてはいかがでしょう。寒さが続いているので風邪をひかないようにという口実で熱燗も一緒に(笑)。野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「白髪ねぎと芽ねぎの辛み和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・白ねぎを細いせん切りにするコツは、内側の半透明の薄い膜を取り除いた後に刻むこと。
・せん切りにしたねぎは風味が弱まらないように、さっと水に通してシャキッとさせる。
・油揚げは油分の旨みをたすために加える。主張し過ぎないように、開いてなるべく細いせん切りにする。
・食べる直前に酢醤油で和える。和えてから時間が経過すると、ねぎがクタクタになって食感が失われると同時に食味も損なわれる。
・「九条ねぎの辛み和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・九条ねぎは冬の寒さが増すほどに特有のぬめりも増える。程よい加熱でトロッとしたぬめりのおいしさを味わう。
・さっと半生に炒めて、熱い合わせ調味料をかけ、ねぎの辛みと食感を生かす。
・松の実を入れると辛みの中に甘さと食感が加わる。
「白髪ねぎと芽ねぎの辛み和え」(右)
【材料(2〜3人分)】・白ねぎのせん切り 20g
・芽ねぎ 20g
・油揚げ 1/2枚
・酢醤油(濃口醤油1:酢1の割合) 小さじ1
・一味唐辛子 少々
【作り方】1.ねぎの白い部分を4.5cmほどの長さに切り、縦に切り込みを入れて芯を取り除く。芯部分は他の料理に使う。巻いている白い部分を1枚ずつはがして、内側についている半透明の薄い膜をはがす。
2.1を重ねて繊維にそってなるべく細いせん切りにして冷水に放す。シャキッとしたらすぐにざるに上げ、水気をよくきる。
3.芽ねぎは根の部分を除き半分に切る。油揚げは2枚に開いて、3.5cm長さで極細のせん切りにする。
4.ボウルにせん切りのねぎと3の芽ねぎ、油揚げを入れてよく混ぜ、酢醤油を加えて和える。器に盛って一味唐辛子をかけて供する。
「九条ねぎの辛み和え」(左)
【材料(2〜3人分)】・九条ねぎ 100g
・しいたけ 2枚
・松の実(いって半分に切る) 少々
・合わせ調味料
日本酒大さじ2、濃口醤油大さじ1強、酢大さじ1、太白油大さじ1
・粉山椒 小さじ3/4
【作り方】1.九条ねぎは6mm幅×3.5cm長さに斜めに切る。
2.しいたけは軸を外して予熱したオーブントースターでこんがり焼き、2〜3mm厚さに切る。
3.フライパンを火にかけ熱し、太白油(分量外)を少々ひいて九条ねぎを入れ炒める。半分くらい火が通ったらしいたけを加える。
4.3と同時進行で合わせ調味料を作る。鍋に材料をすべて加えて火にかける。
5.合わせ調味料が沸いたら半生の状態の3に加え、全体にからめて器に盛る。松の実を散らして供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗