女性特有の不調を解消し、更年期からの健康を支える「性差医療」最前線 最終回(全8回) 初潮から閉経までの約40年にわたり女性ホルモンに庇護され続けてきた私たち女性の体は、更年期を境に次のステージへと入っていきます。こうした性差の視点から成熟世代の女性の健康づくりをサポートしてくれるのが2001年以降、全国各地に設置されてきた「女性外来」です。年を重ねても自分らしく生きていくために──。その扉を叩いてみませんか。
前回の記事はこちら>> 「今の私」と「未来の私」の健康のために、性差医療の専門外来のサポートを女性外来を設置する医療機関は全国に約300。その規模により診療スタイルはさまざまです。このうち定評のある女性外来を取り上げ、特徴や診療内容について詳しくご紹介します。
●前回の記事
【金沢医科大学病院】原因が特定できない不定愁訴の改善に多科・多職種連携で総合的にサポート時計台記念病院(女性診療科)
院長・女性診療科部長
藤井美穂(ふじい・みほ)先生1981年札幌医科大学医学部卒業。同大学附属病院産婦人科などを経て2007年時計台記念病院女性総合診療センター長、2020年より現職。NPO法人性差医療情報ネットワーク副理事長。尿漏れや骨盤臓器脱に悩む女性たちの“最後の砦”になる膀胱、直腸、子宮などを支える骨盤底筋の損傷やゆるみで生じる尿失禁・骨盤臓器脱。加齢や経腟分娩、便秘、肥満などがリスクとなり40代の発症も珍しくありません。
進行すると外出も楽しめない、椅子に座れないなど生活の質が著しく損なわれます。主治医に「うちでは手術ができない」と見放されたり、手術を受けても完治せず再発するケースも多くみられます。
「ここはそんな女性たちの“最後の砦”です。社交性を失い、家にひきこもりがちだったかたが当院で手術を受けて本来の日常を取り戻し、“これから第二の人生を楽しみます”と涙ながらに握手を求めてくれます」と藤井美穂先生。
便秘対策や骨盤底筋体操のパンフレット、排尿日誌などを用いて進行予防や再発防止のセルフケア指導にも力を入れる。特殊なクッションで腟口から骨盤底を押し上げて保持する装具。骨盤臓器脱の予防や治療に用いる。再発率の低い高度な手術と充実した日常生活の指導状態に応じて治療法や手術法を選択しますが、特に骨盤臓器脱の再発率が低く技術的難易度の高い「ロボット支援下仙骨腟固定術」も安心して任せられる病院として、道内外から高い評価を得ています。
また、日常生活での再発予防に力を入れているのも特徴。肥満や便秘対策のポイントを管理栄養士が、骨盤底筋体操指導を理学療法士が行います。院内認定看護師は生活上の注意指導や精神的サポートを行い、退院後も電話で患者さんの様子や経過をフォローします。
専門知識を持つ理学療法士が手術後の患者さんに模型を示しながら骨盤底筋体操を指導する。「再発を過度に恐れてやりたいことを我慢するのは本末転倒なのでは。医療は各人の充実した人生を支援するためにあるのですから、患者さんには生き生きと過ごしてほしい。大丈夫、万が一再発しても私たちがなんとかします」。
NPO法人性差医療情報ネットワーク「女性外来マップ」天野惠子先生が理事長を務めるNPO法人性差医療情報ネットワークの調査によると、全国には性差医療の考え方に基づいて女性の健康を支援する医療機関が約300施設あります(2018年1月現在)。同法人では、女性外来を開設している医療機関のリストを公開しています。
URL:
http://www.nahw.or.jp/hospital-info Information
時計台記念病院
北海道札幌市中央区北1条東1-2-3
- ●受診方法について 予約制。紹介状があれば持参。なくても受診は可能。小児期から更年期・老年期まですべての年代の女性への診療を、婦人科医を中心に看護師や理学療法士等も含めたチームで対応。尿失禁・骨盤臓器脱のほか、高度生殖医療も含めた不妊治療にも力を入れている。
〔特集〕女性特有の不調を解消し、更年期からの健康を支える 「性差医療」最前線(全8回)
撮影/家庭画報本誌・武蔵俊介 取材・文/浅原須美
『家庭画報』2022年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。