とろろいもの磯辺(いそべ)揚げ、おとしいもの味噌汁
今日はとろろいもの磯辺揚げを紹介します。磯辺揚げとは、海苔を衣に加えたり、巻いて揚げた料理のことで、海苔が磯で採れることからこのように呼ばれます。同様の料理を居酒屋でもよく目にすることがありますね。なぜ人気なのでしょうか? もちろんおいしい酒の肴だからなのでしょうが、理屈で説明すると次のようになります。
「
野彩せんべい」でお話ししたように、ポテトチップスなどのジャンクフードは油と旨み(アミノ酸など)、塩分、甘みが強く効いた刺激的な味が特徴です。そこにカリッ、ふわっ、もちっなどの食感が加わることで人をやみつきにします。
この現象は動物でも同じことが起きるのですが、人間の場合はもう少し複雑で、人が本当にやめられなくなるほどのおいしさは先の刺激的な味を少し抑えたゾーンにあるようです。
このことは「
カリフラワーの長いもとろろ焼」でも触れましたが、刺激が強いものは満足度が高いのですが、ゆえに飽きやすい傾向があります。それに対して本当にやめられないものは4要素(油、旨み、塩分、甘み)を満たしつつ、やや薄めの味のもので、そこに青海苔やかつお出汁、醤油というような慣れ親しんだ懐かしい風味が効いています。ポテトチップスなどでもそうですね。
とろろいもの磯辺揚げはまさにそれに当てはまります。糖質の元であるでんぷんを多く含むとろろいもを油で揚げたもちっとした食感。3大旨み成分である「グルタミン酸」「グアニル酸」「イノシン酸」を含む海苔で巻き、加えて表面に塩をふるのですからおいしいに決まっています。
ただ、居酒屋さんによっては作業効率の点から冷凍の山いもを使う場合も多いでしょうし、生であっても安価な長いもを使わざるを得ないかもしれません。長いもの場合は水っぽさを片栗粉などを加えることで補い、アミノ酸で旨みをたすこともあり得ます。
家庭で作れば、粘りの強い上質の山いも(大和いも、つくねいもなど)を使ったとしても、居酒屋さんで食べるより安くあがります。山いもは他の料理に使ったものが半端に残っていることも多いですね。何かもう一品ほしいとき、すりおろして海苔で巻いて揚げるだけでパッと作れ、酒の肴にもおかずにもなります。磯辺揚げを「善はいそべ(急げ)」で、今晩いかがですか(笑)。野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「とろろいもの磯辺包み揚げ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・海苔はつるつるした面が表でざらざらした面が裏。とろろをのせる際はざらざらした面にのせる。
・海苔にとろろをのせて巻いたらすぐに揚げる。時間をおくと海苔が柔らかくなって扱いにくくなる。
・海苔がカリッと揚がったら油から上げる。外カリッ、中とろっの状態がおいしい。
・酒の肴には塩で、おかずには醤油を数滴垂らす。
・「落としいもの味噌汁」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・味噌汁のコツは「沸かさない」「煮えばなを手早く供する」「温め直さない」。
・揚げとろろは中まで火を通し過ぎない。
・揚げとろろの油分が味噌汁にこくを出す。
・なめこには株がついた状態の株とりなめこと、株を取ってバラバラにした足切りなめこがある。なめこはぬめりがなくならないよう軽く水洗いしてから使う。株とりなめこは石づきが残りがちなので洗う際に注意する。
「とろろいもの磯辺包み揚げ」
【材料(3人分)】・大和いも 100g
・揚げ油 適量
・海苔 適量
・塩 少々
【作り方】1.大和いもは皮をむき、目の細かいおろし金ですりおろす。
2.海苔は3.5cm×5.5cmを6枚(写真右用・a)、6cm角を3枚(写真左用・b)切る。
3.フライパンに揚げ油を入れて170℃に熱する。
4.乾いたまな板などに裏側を上に海苔をそれぞれ並べて、とろろいもをaには各8g、bには各16g置く。aは筒状にいもを海苔で巻き、bは海苔の四隅をつまみ上げるようにいもを包む。
5.包んだとろろいもを油に入れて1分半ほど揚げて、海苔がカリッとなったら上げ、塩をふって供する。好みで粉山椒をかけてもよい。
「落としいもの味噌汁」
【材料(3人分)】・大和いも 30g
・揚げ油 適量
・なめこ 45g
・出汁 450cc
・信州味噌(好みの味噌でよい) 37g
・おろし生姜(好みで) 適量
【作り方】1.大和いもは皮をむき目の細かいおろし金ですりおろす。
2.揚げとろろを作る。先に揚げ油を170~175℃に熱しておき、ピンポン玉1個分(10g)くらいのとろろを左手に取って箸でつまみ、左の人さし指に巻きつけるように箸先でぐるぐる回して丸く形づくったら揚げ油の中に入れる。箸で返しながら薄いきつね色に揚げる。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。手がかゆくなる場合は調理用使い捨て手袋をつける。
3.なめこは、ぬめりがなくならないよう軽く水洗いしてざるに上げる。
4.鍋に出汁を入れて火にかけ、80℃くらいになったらなめこを加えて味噌を溶き入れる。90℃を超えたくらいで火からおろす。椀に揚げたてのとろろを盛って汁を注ぎ、好みでおろし生姜を添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。