プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> ヤーコンとクレソンの酒粕白酢和え
初春野菜を使ったサラダ感覚の白酢和えを紹介します。白酢和えは「
蓮いもの白酢かけ」でもお教えしましたが、今回の白和えには風味豊かな新粕(しんかす)を加えています。
日本酒は基本的に冬に造られるため、新粕も新酒とほぼ同時期の12月~2月に出回ります。発酵した醪(もろみ)から日本酒を搾る際の副産物が酒粕です。酒粕はたんぱく質、炭水化物、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどが豊富で旨み成分も含まれているため、料理に利用すると旨みやこくが増します。
酒粕を使った料理は粕汁(2/25に紹介予定)や粕漬け(魚類、イクラ、野菜の漬けもの)、甘酒などが有名ですね。「
しみつかれ」やわさび漬け(「
菜花のわさび漬け和え」)にも使います。粕漬けには熟成させた酒粕を用い、その他の料理には新粕の風味を生かします。
日本酒に純米酒や吟醸酒などの種類があるように、酒粕にも強い圧力をかけて絞った板状のもの(純米酒などの酒粕)や、優しく絞った柔らかいもの(大吟醸などの酒粕)と違いがあります。高価な大吟醸のほうが酒粕もおいしいように思いますが、一概にそうとは言えません。
大吟醸は米の半分以上を磨いて香り高くすっきりとした味わいにします。米の表層部分にはたんぱく質や脂質、でんぷんなどがありますが、日本酒造りにとってそれらは旨みのもとになる半面、雑味の原因にもなるからです。一方、純米酒は精米歩合(米を削る割合)が低いため、米本来の味わいや旨みが感じられます。
したがって酒粕を使用して料理をするなら、旨みを多く含む純米酒の酒粕のほうがおすすめです。
「糟糠(そうこう)の妻は堂より下(くだ)さず」(貧しい時代から苦労を共にした妻は立身出世した後も大事にする)という言葉が、後漢の政治家・宋弘(そうこう)の逸話にあります。
糟糠とは糟(さけかす)と糠(ぬか)を指し、粗末な食事を意味しますが、どちらもひと手間かけて上手に用いることで美味につながります。ひと手間かけられる心の余裕、なんと豊かなのでしょう。今夜は手作りのぬか漬けと酒粕白酢和えで一杯いかがですか。
偉そうにこんなことを言っていると、家内から「糟糠の妻でも何でもいいけど、出世して初めて言える言葉だからね!」と叱られそうです(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「ヤーコンとクレソンの酒粕白酢和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・風味は豊かだが素材自体の旨みは淡泊ないちご、ヤーコン、クレソンを酒粕白酢で和えることで旨みを加える。
・酒粕白酢に使う白和えの衣は少量では作りにくい。冷蔵庫で保存すれば3日ほどはおいしく使えるので、ある程度の量仕込んで残ったら他の野菜の和えものなどに使うとよい。
・白酢に新粕が加わることで軽やかで風味豊かな旨みとなる。
・アーモンドの食感と油分がさらにおいしさのグレードを上げる。
「ヤーコンとクレソンの酒粕白酢和え」
【材料(3人分)】酒粕白酢(酒粕1:白酢3) 60g
・酒粕(新粕) 15g
・白酢 45g
白酢の作りやすい分量:
・白和えの衣 約80g:絞り豆腐(木綿豆腐1/2丁の水分をしっかりと絞ったもの)70g、いり白ごま(市販品のいりごまを軽くいり直す)5g、塩少々、薄口醤油小さじ1弱、砂糖小さじ1と1/2
・出汁 大さじ1/2
・酢 大さじ1/2
※白酢は白和えの衣に出汁と酢を追加したもの。「
トマトの白和え」参照
具材
・いちご 5個
・ヤーコン 30g
・クレソン 適量
・ローストスライスアーモンド 適量
【作り方】1.酒粕白酢を作る。板状の堅い酒粕は日本酒(材料外)を少量ふりかけ1時間ほどおくと柔らかくなる。酒粕をすり鉢に入れてよくすり、白酢を加え合わせて滑らかなペースト状にする。
2.いちごは洗ってヘタを除き、縦に6等分する。ヤーコンは皮をむいて6mm角×2.5cm長さに切る。クレソンは洗って柔らかい部分を食べやすい大きさに切る。
3. ボウルに酒粕白酢を入れ、いちごとヤーコンを加えて和える。器に盛ってアーモンドスライスとクレソンを散らす。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗