いなり寿司、いなり飯蒸し
今日は初午(はつうま。2月最初の午の日)です。初午の由来は京都府稲荷(いなり)山の麓にある「伏見稲荷大社」(全国に約3万社あるといわれる稲荷神社の総本社)にあります。奈良時代の和銅4年(711)2月初午の日に稲荷大神(穀物の神様)が稲荷山に降臨したとされ、以来、初午には稲荷神社に参り、五穀豊穣や様々なご利益を祈願するようになりました。
稲荷神社の稲荷は「稲生り(いねなり)」に由来し、「おいなりさん」と親しみをもって呼ばれます。きつねを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、きつねは稲荷神の使いであって、稲荷神ではありません。
きつねの好物といえば油揚げ。油揚げに稲荷神のおかげでもたらされた米を詰めたのがいなり寿司です。東日本では濃口醤油で味つけし、米俵に見立てた俵型にします。西日本では薄口醤油で味つけした三角型が主流で、“稲荷山の形”や“きつねの耳の形”に見立てたなどの説があります。
でも、なぜきつねの好物が油揚げなのでしょうか? 諸説あるようですが、面白い説として次のような話があります。稲荷神は農作物を食い荒らすねずみに困っていた人々のために、ねずみを獲ってくれるきつねを使いに出しました。人々はお礼に油で揚げたねずみを供えていたそうですが、後に仏教の影響で殺生ができなくなると「畑の肉」ともいわれる大豆を原料とした油揚げをお供えするようになったとか。よくできた話ですが食欲が失せますね(笑)。
今日は2種類のおいなりさんを紹介します。俵型のほうは寿司飯にいった麻の実を加えたいなり寿司です。三角形のほうは油揚げを裏返して雪の稲荷山に見立てた、あつあつのいなり飯蒸し(おこわ)で、朱色の鳥居のような赤かぶの酢炒りを添えました。
「雪やこんこん、きつねもコンコン、食っても食っても腹減りやまぬ」(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「いなり寿司、いなり飯蒸し」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・麻の実はフライパンでいって用いると、食べる際にカリッと弾けて食感がよい。
・飯蒸しは多めに仕込んだほうがおいしくできる。残ったら冷凍保存も可能。
・最近の炊飯器にはおこわモードもあるが、加熱むらが起きやすい。おこわ本来のおいしさを味わうには、もち米を蒸すに限る。
・蒸している途中でたす“ふり水”を酒塩(酒に塩を混ぜたもの)に替えると、旨みが増し下味もついておいしくなる。
・いなり飯蒸しは油揚げで包んだ後に蒸すと、油揚げの味が抜ける。あつあつに蒸した飯蒸しを油揚げで包んですぐに供する。
「いなり寿司」(右)
【材料(2~3人分)】
・いなり用油揚げ(約6~8cm角の正方形のもの) 4枚
油揚げの煮汁:出汁500cc、砂糖大さじ1、みりん小さじ1、濃口醤油大さじ1と1/3
・米 2合
・寿司酢 70~80cc(好みで加減する)
作りやすい分量:米酢450cc、砂糖180g、塩70g、昆布8g
(材料をすべてボウルに入れてラップし、そのまま一晩おく。翌日、昆布を取り出して泡立て器で混ぜて砂糖と塩を溶かす。瓶やペットボトルで常温保存できる)
・麻の実 適量
・生姜の甘酢漬 適量 「
新生姜の甘酢漬け3種」参照
【作り方】1.油揚げはボウルに入れ熱湯をかけ、ざるに上げて湯をきり、冷めたら水気をよく絞る。油臭くないものであれば、油抜きせずにそのまま使用してもよい。油揚げは長方形になるよう半分にに切る。
2.油揚げを鍋に入れ、出汁を注いで火にかけ調味料を加える。沸いたら中火にして15分くらい炊いて煮汁を煮つめていく。煮つめ具合は好みで。
3.寿司飯を作る。米は炊く30分以上前にといで、ざるに上げておく。通常の水加減より1割少ない水で炊く。
4.飯切り(はんきり。寿司飯を合わせる木製の桶)の内側としゃもじを水で十分に湿らせ、布巾で拭いておく。飯切りがない場合は大きめのボウルでよい。
5.ご飯が炊き上がったら、飯切りまたはボウルに移して寿司酢を全体にかけ、しゃもじで切るように酢を合わせていく。うちわがあれば、あおぎながらやるとよい。「
野菜のにぎり寿司」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。酢が全体になじんだら、まわりについた米粒も合わせて、寿司飯を片側に寄せる。水で洗い堅く絞った布巾を寿司飯にかぶせ、ご飯が寄せてあるほうを上にして飯切りまたはボウルを傾け、余分な酢が下に流れるようにする。
6.麻の実はフライパンでカリッとなるようにいり、5の寿司飯に混ぜる。
7.2の油揚げを切り口から開いて、寿司飯を適量詰める。器に盛り、生姜の甘酢漬けを添える。
「いなり飯蒸し」(左)
【材料(2~3人分)】・いなり用油揚げ 4枚
油揚げの煮汁は「いなり寿司」と同じ
・もち米 2合
・酒塩 70~90cc(蒸し上がりの好みの堅さによる)
作りやすい分量:昆布出汁50cc、日本酒50cc、塩4g
・柚子 少々
・赤かぶの酢炒り(市販品の紅生姜でもよい) 適量 「
赤かぶの卯の花挟み」参照
【作り方】1.油揚げは「いなり寿司」の1~2と同じように炊く。対角線にそって三角形になるように切る。
2.飯蒸しを作る。もち米は蒸す1時間以上前にといで、1時間水につけてざるに上げておく。ざるにガーゼを広げて、その上にもち米を広げる。蒸気が通りやすいように真ん中部分はくぼませておく。
3.蒸気が立った蒸し器に、2のもち米をざるごと入れて中火で蒸す。8分蒸したら蒸し器からざるを取り出して、ガーゼを持ってもち米だけをボウルにあける。用意しておいた酒塩を加えて、酒塩が全体に回るようにしゃもじで混ぜる。再度ガーゼを敷いたざるにもち米を戻して蒸し器に入れ、7~8分中火で蒸す。「
落花生おこわ」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
4.油揚げを切り口から開いて、柚子の皮部分のみをおろし金で削ったものをふりかけた、あつあつの飯蒸しを適量詰める。器に盛り、赤かぶの酢炒りをばち状に切ったものを添える。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。