自分の踊りに対して納得はできないし、したくない
ロシア人ダンサーたちに囲まれてなお、舞台に光をもたらす華。ドラマティックにしなう身体。まるで指先から空気に溶けていくかのような、優美この上ない腕の運び。
入団4年にしてロシアバレエの伝統の美を体現する存在となったメイさんは、今、次々と主役を任されています。
「私は全然......まだまだです。コーチの先生にもたくさん注意をいただきますし、空き時間はすぐに劇場のビデオルームに行って、素晴らしいバレリーナたちの映像を見たり、自分の踊りを撮った映像と見比べたり。今も研究し続ける毎日ですけれど、でも、私の強みは自分を追い込めることだから。自分の踊りに納得することは絶対にできないし、したくないです」
「どんなに疲れていても、朝のクラスレッスン(基礎練習)は絶対に休みたくない」と言う努力家のメイさん。入団以来、ひとつの大きな転機になったのは『ロミオとジュリエット』のジュリエット役(写真)を演じたこと。「最後に自ら命を絶つほどの激しい感情も、自分の中から出すことができるんだ......って。それ以来、舞台の上で役を表現することに、少しだけ自信が持てるようになりました」。撮影/Natasha Razina State Academic Mariinsky Theatre「負けず嫌いだった」。それが、子ども時代の自分を振り返って出てくる唯一の記憶。
「私はいつも、今やるべきことに必死すぎて、記憶がどんどん吹き飛んでいく。ただ毎日全力だったということしか、覚えていないんです」。
これからの目標は?と尋ねても、「特にありません。毎日100パーセントで自分と闘って、その先でどうなるか。それだけです」と、きっぱり。
バレエの合間の息抜きは「甘い物を食べることと、BTS!」と笑顔がこぼれたメイさんは、現在21歳。その華奢な身体に鋼のような意志を秘め、今日もサンクトペテルブルクの空の下で踊っています。
取材・文/阿部さや子
『家庭画報』2022年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。