わけぎと干しいものぬた和え、九条ねぎとさつまいもの煮もの
さつまいもの料理は秋に「
いもきんとん」を紹介しましたが、今の時期のさつまいもは秋の頃よりずっとおいしくなっています。秋に収穫されたさつまいもは貯蔵されるとでんぷんが徐々にショ糖に変わり、水分が少しずつ抜けて糖分が凝縮され甘みが濃くなります。
皮がむけておらず、色が濃く艶があって、表面がなめらかで太く紡錘形のものを選びます。細いものや傷や黒い斑点があるもの、ひげ根があるものは繊維が多いので避けます。切り口についている黒い跡や塊は流れ出た蜜が乾いたもので、糖度が高いことの証明です。安納いもは形や皮の色も違うため選び方が異なります。皮に張りがあって傷や色むらがなく、あまり大き過ぎないふっくら丸みがあるものがよいでしょう。
多くの品種があるさつまいもですが、食感で分けると3つになります。ほくほく系には甘みが強く繊維の少ない、煮ものや天ぷら向きの「鳴門金時」、関東の代表品種で煮ものや焼きいも、菓子類に使われる「紅あずま」や「紅さつま」などがあります。ねっとり系は種子島の特産で、糖度が高く焼きいも向きの「安納いも」や「シルクスイート」など。しっとり系は「紅はるか」や「紅天使」。他にも菓子やサラダに合う「紫いも」などがあります。
今日は干しいもも使います。さつまいもを一定期間貯蔵してでんぷんを糖化させた後、洗浄・選別し、60~90分蒸して皮をむき、ピアノ線を枠に張ったスライサーでスライスします。その後、干し網に一枚ずつ並べ、ビニールハウスで天日干ししたり乾燥機を使って干し上げます。形状には平干し、丸干し、角干しなどがあり、熟成するとさつまいもに含まれる麦芽糖が徐々に表面に結晶化し白い粉がふいてきます。
さつまいもは救荒作物(凶作などに備えて作られる農作物)として渡来し全国に広まりましたが、江戸時代には様々な料理が生まれ、『甘藷百珍(いもひゃくちん)』といったレシピ集もできました。その中にさつまいもと長ねぎを酒と塩で炊いた「なんば煮」というものがあります。今日紹介する料理に近いもので、同様のものは各地の郷土料理にも。
砂糖が高価だった時代、砂糖の代わりに加熱したねぎの甘みでさつまいもを調理した知恵に頭が下がります。甘さに慣れた現代人が食べると逆に新鮮に感じます。いつの時代も人は工夫しておいしさを追い求めるのですね。おいしい“おいも”を“追いも”とめる(笑)。野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
「わけぎと干しいものぬた和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・わけぎは根元の白い部分と緑の部分に均一に火が入るように茹でる。
・茹で上がったわけぎは水に放さずに塩をふって急冷し、ぬめりを適度に除く。
・酢味噌は酢だけでなく、橙(だいだい)やレモンの絞り汁も加えることでマイルドな酸味になる。
・「九条ねぎとさつまいもの煮もの」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・ねぎは炊くほどに辛みが少なくなり、甘みが増し柔らかくなるが、さっと炊けば食感とねぎの程よい辛みも残る。炊く時間を調整して好みで甘みと辛み、食感のバランスをとる。
「わけぎと干しいものぬた和え」(左)
【材料(2~3人分)】・わけぎ 2本
・塩 少々
・干しいも 20g
・うど 20g
・辛子酢味噌 35g
玉味噌(白)30g(作りやすい分量:西京味噌500g、卵黄5個、砂糖30g、日本酒200cc 「
生姜味噌」参照)、橙果汁(レモン汁でもよい)小さじ1/2、酢小さじ1/4、 練り辛子5g
【作り方】1.わけぎは洗って根の部分だけを切り落とす。大きめの鍋に湯を沸かし、わけぎの先部分を持って根元の白い部分を先に湯につけて30秒ほど茹でる。白い部分がくたっとしてきたら、全体を湯に入れて40~45秒ほど茹でる。火の通りが均一になるように落し蓋をするか、途中で1~2回上下を返す。
2.茹で上がったわけぎは水に放さず、ざる上げた後に、大きめのバットやまな板に並べて塩を薄くふる。根のほうが下になるようにバットを傾斜させて、扇風機の風やうちわであおいで冷ます。
3.冷めたわけぎ全体をラップで包む。まな板に横に置き、白い根元部分を麺棒で軽くたたいて繊維をほぐす。先から根元に向かって麺棒を転がし、軽くしごくようにしてぬめりを出し、2.5cm長さに切る。「
わけぎのぬた和え」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
4.干しいもはオーブントースターで焼いて7mm角に切る。うどは皮をむいて5mm角×2.5cm長さに切り、水でさっと洗ってざるに上げる。
5.辛子酢味噌を作る。ボウルに玉味噌(白)を入れて橙果汁と酢を加えて混ぜ、練り辛子も加える。
6.ボウルにわけぎ、干しいも、うどを入れて混ぜる。辛子酢味噌を加えて全体を和えて器に盛る。
「九条ねぎとさつまいもの煮もの」(右)
【材料(2~3人分)】・さつまいも 100g
・九条ねぎ 50g
・サラダ油 少々
・出汁 170cc
・日本酒 30cc
・砂糖 小さじ1/2~1
・薄口醤油 小さじ1
・濃口醤油 小さじ1
・七味唐辛子 少々
【作り方】1.さつまいもは皮付きのまま1cm角×3.5cm長さに切る。九条ねぎは3.5cm長さに切る。
2.フライパンを火にかけてサラダ油をひき、さつまいもを加えて炒める。さつまいもに少し焦げ目がついたら出汁と調味料を加え、沸いたら弱火にして8分ほどいもが煮くずれないように注意して炊く。九条ねぎは、甘みを出したければ煮汁が沸いた時点で加え、食感と程よい辛みを残したければ、弱火にして5分たってから加える。
3.できたてを器に盛り、好みで七味唐辛子を添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。