うずみ豆腐2種
埋み豆腐(うずみどうふ)をご存じでしょうか? 椀に温めた豆腐を盛り、その上にご飯をよそって麹の甘みがきいたとろみのある白味噌仕立ての味噌汁をかけます。寒い冬にうってつけで、添えた溶き辛子がよいアクセントになります。うずみ飯とも言い、「うずみ」とは「うずめる」「うめる」という意味で、豆腐がご飯で「うずもれている」のが名前の由来です。
うずみ豆腐は寒い冬、修行僧が暖をとるために食べ、茶の湯では納会(年末のお稽古納めの日)や利休忌(旧暦2月28日)などに供されます。忙しい時のせめてものおもてなしで、少ない器でさっと食べられるという意図もあるようです。
もともと京都の郷土料理ともいわれますが、「汁かけ飯」や「ぶっかけご飯」、今で言えば西日本の「ねこまんま」(東日本の「ねこまんま」はご飯にかつお節をかけたもの)に当たると思われます。ガスや電気が普及する前は、一度炊いた飯を保温・再加熱するのは手間で、冬は冷めた飯に湯や茶、熱い味噌汁などをかけて温め柔らかくして食べました。
うずみ豆腐は、手早く腹を満たすだけの汁かけ飯とは違います。丁寧に作れば非常においしいごちそうとなり、心も満たします。ポイントは豆腐を十分に温め、必ず炊きたてのご飯を使うことです。蒸したての飯蒸し、米から炊いた白粥でもよいでしょう。
連日の私の寒いダジャレで冷えきった心を、あつあつのうずみ豆腐でどうか温めてください。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「うずみ豆腐(白味噌仕立て)」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・ご飯の量が多過ぎると味噌汁の中に落ちてふやけてしまうので、豆腐に乗のるくらいの量にして足りなければお代わりをする。
・揚げたふきのとうが風味を添えてよいアクセントになる。つぼみ部分は苦過ぎるので柔らかい外葉を使う。
・味噌汁のコツは「沸かさない」「煮えばなを手早く供する」「温め直さない」。
・「埋み豆腐(あんかけ)」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・味噌汁に比べてあんはご飯にしみにくいので、温めた豆腐と並べて飯蒸しを盛る。
・梅肉が風味を添え、味を引き締める。
「うずみ豆腐(白味噌仕立て)」(左)
【材料(2人分)】・ご飯(炊きたてのもの) 適量
・絹ごし豆腐 1丁
・出汁 400cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・西京味噌 140g
・日本酒 大さじ2
・ふきのとうの柔らかい外葉 1個分
・揚げ油 適量
・練り辛子 少々
【作り方】1.絹ごし豆腐を4cm四方×1.5cm厚さに切る。
2.フライパンに揚げ油を入れて160℃に熱する。ふきのとうはつぼみを包む外葉を閉じた状態でぬれ布巾で拭いて、汚れを取り除く。一番外の葉が堅いようであれば除き、つぼみの周りの柔らかい外葉を外す。油に入れてカリッとなるまで素揚げし、クッキングペーパーに広げ余分な油を除く。
3.鍋に出汁を注いで火にかけて80℃くらいになったら、西京味噌を溶き入れる。豆腐を加えていったん火を消し、2分ほどおいて豆腐の中まで温める。火をつけ味噌汁が90℃を超えたくらいで日本酒を入れ、火からおろす。椀に豆腐を盛って、上に炊きたてのご飯をのせる。汁を注ぎ、練り辛子を少量の味噌汁でのばしたものとふきのとうを添えて供する。
「うずみ豆腐(梅風味)」(右)
【材料(2人分)】・飯蒸し 1合分
もち米1合、酒塩(作りやすい分量:昆布出汁25cc、日本酒25cc、塩2g)35~45cc(好みの堅さに応じる) 「
落花生おこわ」参照
・絹ごし豆腐 1/2丁
・昆布出汁 適量
・かつお節と昆布の出汁 200cc
・濃口醤油 小さじ1/2
・薄口醤油 小さじ1
・みりん 小さじ1/2
・水溶き葛(葛粉1:水2。片栗粉でもよい) 50cc
・梅肉 少々
【作り方】1.もち米は蒸す1時間以上前にといで、1時間水につけてざるに上げておく。
2.別のざるにガーゼを広げて、その上にもち米を広げる。蒸気が通りやすいように真ん中部分はくぼませておく。
3.蒸気が立った蒸し器に、2のもち米をざるごと入れて中火で蒸す。8分蒸したら一度蒸し器からざるを取り出して、中のもち米をボウルにあける。そこに用意しておいた酒塩を加えて、酒塩が全体に回るようにしゃもじで混ぜる。先のガーゼを敷いたざるにもち米を戻して蒸し器に入れ、再度7~8分中火で蒸す。
4.絹ごし豆腐を2.5cm×4.5cm、2.5cm厚さに切る。鍋に昆布出汁を注ぎ豆腐を入れて火にかける。沸いたら弱火にして豆腐の中心部まで温める。
5.べっこうあんを作る。別の鍋にかつお節と昆布の出汁を入れ、火にかけて調味料を加え、沸いたら弱火にする。水溶き葛を加えてよく混ぜ、粉臭さがなくなるまで30秒ほど炊く。
6.温めた豆腐を椀の奥に、蒸したての飯蒸しを手前に盛る。上から熱いあんをかけ、梅肉を豆腐の上にのせて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。