心身ともに打ちのめされた状態になったとき、高橋先生の中にある変化が生じます。「私は今まで、自分が正しいと思うことを一生懸命やっていれば周りはついてきてくれると信じて生きてきた。でもうまくいかない。これは自分自身に問題があるからではないか」と意識が内側に向き始めたのです。
自己啓発の本を読み、セミナーに通い、人の話を聞く訓練などを行ううちに、自らを客観的に見ることができるようになりました。
「自分がいかに狭い価値観にとらわれていたかに気づきました。そこから外れる人は許せないとの考えや態度の無意識な積み重ねが現状を招いたのだと。私は少しずつ変わっていきました。鎧を脱いで、自然体になっていったというのでしょうか――」
患者さんに対しても、検査結果を基準に医学的に正しい指導を行うことが第一なのではなく、縁あって出会えたそのかたにとって何がベストな医療かを考えるようになりました。
いつの間にか、以前は口癖だった“ねばならない”は一切出なくなり、必ず着ていた白衣も使わなくなり――。先生の内面的変化は周囲の目にも明らかでした。
同時に症状も軽減していきました。依存症になりかけていた何種類もの薬も“やめてみて必要だったらまた使えばいい”と柔軟に考え、今はHRTだけを続けています。
「一人で何役もこなし、頑張りすぎている女性が多いですね。更年期は、自分が楽になるチャンスです。〝無理しなくていい。できることをやればいい。あなたが幸せでいることが家族の幸せですよ〟とお伝えしています」
高橋亜佐子(たかはし・あさこ)
定期的に漢方セミナーに参加し、志を同じくする女性医師たちとも親交を深めている。
1964年生まれ。90年東京女子医科大学卒業。
94年実家の高知外科胃腸病院に就職。
99年女性にやさしい医療を目指してリニューアルし、高知いちょう病院に改名。
2000年女性専用外来を開設。03年院長に就任。
13年病棟を閉鎖し病院から医院へ。
西洋医学、漢方、代替療法を用い、全人的な医療を目指す。
家族は副院長の夫と医科大学3年生の息子。
日本消化器内視鏡学会認定専門医、日本内科学会認定内科医。
取材・文/浅原須美 イラストレーション/水上多摩江 撮影/本誌・伏見早織
「家庭画報」2018年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。