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冬の茶懐石で多く使われる筒向付。今日はその器に和のハーブ、せりを盛りつけます

2022.02.22

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プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。一覧はこちら>>

せりと切り干しのはりはり漬け、辛子黄身酢かけ


せりと切り干しのはりはり漬け、辛子黄身酢かけ

今が旬のせりを使った料理を2品紹介します。せりについては「せり飯、せりのおひたし」でお話しさせていただきましたが、今日はせりの特徴である食感を切り干し大根の食感と合わせます。もう1品は風味豊かなせりを揚げた生麩と合わせてこくのある黄身酢かけ。ともに唐津焼の筒向付(つつむこうづけ)に盛ります。

せり飯、せりのおひたし


向付とは茶懐石の用語で、お膳の手前に置く飯椀・汁椀に対して、向う側(奥側)に置くことから名づけられました(「11月の野菜懐石」の写真参照)。茶懐石の途中で鉢などに一盛りにして出される料理を取り分ける器にもなり、最後までお膳の上にある器なので、もてなす側も思い入れのあるものを用います。

季節や趣向、場面に応じて使い分け、春には明るい色調のもの、夏には染付や義山(ギヤマン)など涼しさを感じるもの、秋には侘びたもの、冬には蒸しものなど温かい料理を盛るために蓋付きの「蓋向(ふたむこう)」が使われることもあります。

本日使用した円筒形で底が深くなったものは筒向付と呼び、主に冬に用います。見込みの深い形状は湯飲みや蕎麦猪口にも見えますが、筒向付には高台がついています。

織部焼、志野焼、唐津焼などで古くから作られています。茶席では一器多用の道具として重宝がられ、煙草盆の中の「火入れ」(煙草の火種を入れる)に使われたり、聞香(もんこう)の席では「香炉」として使われる場合もあります。

酢のものや和えもの、珍味などが奥のほうにひっそり入っている感じがなかなか趣深く、客は中に何が入っているかわからないので手にとってのぞき込むため「のぞき」という別名もあります。食べた後に和え衣の残りなどがついて器がきれいに見えなくなる料理に使うと気が利いており、煮豆やおからなどバラバラとくずれて形がとりづらい料理をすっきりと盛ることもできます。

この連載でも「壬生菜と春菊の高菜粒辛子和え」「わけぎのぬた和え、酢のもの」などで筒向付を使っていますが、実は料理の撮影には不向きな器です。料理によってはお客さまにお出しする倍くらいの量を盛らないと、中の料理が写らないこともありました。その点をご理解の上、写真を見ていただければと思います。

しかし、このジレンマは昔からあったようで、「汲み上げゆばとゆり根のあんかけ」で使った織部の筒向付のように、上げ底になったものも昔から作られています。風情はそのままに実用性を加味した天才的な工夫です。

筒向付は、日本人ならではの美意識なのかもしれません。器使いとしてはかなり上級向けとされ、私も上手に使いこなせませんが、筒向付の佇まいがとても好きなので多くの種類を持っています。カメラマンさん泣かせの撮影しにくい器をこれからも使っていきます(笑)。日々挑戦。野菜料理を楽しみましょう。


ちょっとしたコツ


・「せりと切り干しのはりはり漬け」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激

・春先に出てくる新ものの切り干し大根は臭みも少なく甘くてみずみずしい。味が抜けないように水につけ過ぎず、さっともどして薄めた土佐酢に漬ける。

・「せりの辛子黄身酢かけ」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激

生麩は低い温度の油で揚げると餅のように膨らみ、一度膨らんだものは食感も悪くなる。200℃くらいの高温で一気に表面だけを揚げるのがポイント。

卵黄は68〜70℃で粘りのある状態になり、それ以上になると固まり出す。湯の温度を80℃くらいにして湯煎するとよい粘りになる

・一般的な黄身酢は甘みや酸味がかなり強いため、素材の味が感じにくくなる。黄身酢は穏やかな味にして、その代わりに素材を土佐酢で下洗いするとおいしい酢のものになる。

・こくがほしければ黄身酢に油を少しだけ加えるとよい。マヨネーズを少量加える方法もある。







せりと切り干しのはりはり漬け、辛子黄身酢かけ

「せりと切り干しのはりはり漬け」(左)


【材料(3人分)】
・せり 1束

・美味出汁 適量
出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合

・切り干し大根(新もの。水でもどして絞る) 70〜80g

・薄めの土佐酢 適量
出汁7:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合

【作り方】
1.せりは根の部分を切り落とす。葉先や上のほうの柔らかい茎と、下のほうの太い茎を分けて、それぞれシャキシャキした食感が残るようにさっと茹でて水に放す。冷めたら水から上げて水分を絞り、葉先や上のほうの柔らかい茎は2cm、下のほうの太い茎は1cm長さに切る。

2.ボウルに水をたっぷり入れて、切り干し大根を入れ、ほぐして付着したごみなどを落とす。下に沈んだごみが混ざらないように両手で少しずつすくってざるに上げる。ボウルに再度、たっぷりの水を入れて切り干し大根を入れ、3〜5分ほどつけてざるに上げる。何回かに分けて、両手でギュッと握って水気をしっかり絞っておく。横に長く置いて食べやすい長さに切り、薄めの土佐酢に10分漬ける。

3.せりをボウルに入れ、水っぽさをなくすため美味出汁を適量注いでほぐす。ざるに上げた後、手で軽く絞って汁気を切りボウルに戻す。酢を絞った切り干し大根を加えてよく混ぜ、器に盛る。

「せりの辛子黄身酢かけ」(右)


【材料(3人分)】
・せり 1.5束

・土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合

・生麩(2×2.5×8cm) 1本

・せりの根部分 適量

・揚げ油 適量

・黄身酢 適量
作りやすい分量:卵黄(溶いたものをガーゼなどでこしておく)3個、土佐酢30cc、砂糖小さじ1/2、酢10cc、薄口醤油小さじ1弱

【作り方】
1.せりは「せりと切干しのはりはり漬け」と同じように下茹でして切る。

2.黄身酢は湯煎しながら作る。鍋に80℃の湯を用意する。アルミ鍋を使う場合は、湯に醤油を数滴落として鍋肌が黒く変色するのを防ぐ。ボウルに氷水を準備しておく。

3.一回り小さい口径の鍋にこした卵黄とすべての調味料を加え、よくかき混ぜる。2の鍋の縁に沿って湿らせた布巾などを半周ほど巻いて黄身酢の材料が入った鍋を入れ、鍋同士がぶつからないように固定する。その際、中の鍋の鍋底が湯につかるように調整する。

4.茶筅で卵黄をかき混ぜ、鍋肌についた卵黄も丁寧に集めてダマができないように全体に熱を入れ粘度をつけていく。湯煎の温度を80℃弱に維持し、粘りがある糊状になったら、鍋ごと氷水に浮かべて急冷する。もし、ダマができたらガーゼや目の細かい水切りネットでこす。「金時草の黄身酢かけ」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。

5.生麩を揚げる。フライパンに揚げ油を入れて200℃に熱する。生麩を1本ずつ入れて表面だけを一気にきつね色に揚げる。全面が同じ状態に揚がるように生麩を油の中で返しながら揚げる。「生麩のみたらし」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。揚がった生麩を8mm厚さに切る。

6.せりの根部分を160℃の揚げ油でカリッとなるまで揚げ、クッキングペーパーに広げて余分な油を除く。

7.せりをボウルに入れて、水っぽさをなくすため土佐酢を適量加えてほぐす。ざるに上げた後、手で軽く土佐酢を絞ってボウルに戻す。生麩を加えて混ぜ、器に盛り黄身酢をかける。揚げたせりの根をのせて供する。

私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。

六雁(むつかり)

榎園豊治さんプロフィール
銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。

六雁 むつかり

東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:http://www.mutsukari.com

六雁 むつかり 料理長、秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。
文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗
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