プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 冬の切り干し大根
寒い2月ももう間もなく終わり、春がきます。昨年の春先に出た新物の切り干し大根も1年がたち、だんだん黄色くなりにおいも強くなってしまいました。
同じ切り干し大根の煮ものでも、時期や状態によって調理法を替えます。においも少なく、甘くてみずみずしい新物の間は調味も薄くし、切り干し大根自体の味を生かします。
一方、古くなったり保存状態がよくないものは、独特のにおいが強くなるため調理法に工夫が必要です。水に長めにつけ、水の中でもむように洗った後にきれいな水ですすいでから調理します。その分、切り干し大根自体の甘みなどが抜けてしまうので、調味を濃くするか、他の素材の力を借りることになります。
今日は白ねぎを上手に活用しましょう。これまでねぎの甘みと辛みについて繰り返しお話しし、料理(「
ねぎの丸焼き、ねぎと油揚げの早煮」「
白髪ねぎと芽ねぎの辛み和え、九条ねぎの辛み和え」「
ねぎのふろふき、味噌焼き」など)も紹介してきました。
甘みと旨みが抜けた切り干し大根は、調味料ではなくねぎの甘みと大豆の旨みで補うことでおいしくします。さらに芽ねぎの風味と一味唐辛子の辛みでにおいも感じにくくなります。
若い頃と違い、体だけでなく肌つやにも“がた”が来た私も、エステで毒出ししてねぎのような何かを上手に加えたら、加齢臭が消え甘くてピリッとしたいい男に蘇るでしょうか……。無視しないで少しは“ねぎ”らってくださいよ(笑)。野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「冬の切り干し大根」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・古くなり黄色くなった切り干し大根はにおいも強いので、なるべく新しくて白いものを選ぶ。なかには漂白で白くしたものもあるので注意が必要。
・大豆は風味と甘みを逃さないように、蒸し器で加熱して柔らかくする。時間がない場合は市販品の水煮の大豆を用いてもよい。
・乾物料理には定番の具材に旬の野菜を加えると、風味が増しておいしくなる。
・他の野菜を炊いた煮汁があれば加える。新しい出汁だけで炊くよりも味が複雑になり奥行きが出る。
・白ねぎの一味唐辛子煮を加えることで、ねぎの甘みと唐辛子の刺激が加わり、おいしくなると同時に味がしまる。
・金時にんじんの梅煮の酸味がよいアクセントになる。
「冬の切り干し大根」
【材料(4人分)】・切り干し大根(乾燥した状態) 70g
・大豆(乾物。市販品の水煮の場合は量を増やす) 100g
・しいたけ(中) 4枚
・油揚げ 1枚
・油(サラダ油2:ごま油1) 適量
・出汁 300cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい。他の煮ものの余った煮汁を使ってもよい
・日本酒 大さじ2
・塩 3g
・薄口醤油 大さじ1+小さじ1
・みりん 小さじ2
・白ねぎの一味唐辛子煮
白ねぎ1本、サラダ油・ごま油各小さじ1/3、日本酒小さじ1、濃口醤油小さじ1、みりん小さじ1、一味唐辛子少々
・金時にんじんの梅煮 適量 「
金時にんじんの梅煮」参照
・せり 1束
・芽ねぎ 少々
【作り方】1.ボウルに水をたっぷり入れ、切り干し大根を入れてほぐし、付着したごみなどを落とす。下に沈んだごみが混ざらないように、両手で少しずつすくってざるに上げる。ボウルに再度、たっぷりの水を入れて切り干し大根を入れ、10〜15分つけて柔らかくもどったらざるに上げる。何回かに分けて両手でギュッと握って水気をしっかり絞る。横に長く置いて食べやすい長さに切る。
2.大豆は、水に1時間30分ほどつけてざるに上げる。深皿に入れて蒸気が立った蒸し器で1時間30分蒸す。時間がない場合は市販品の水煮の大豆でよい。
3.しいたけは4mm厚さに切る。油揚げは1cm×3cmに切る。せりはさっと茹でて水に放し、冷めたら水から上げて水気を絞る。
4.白ねぎの一味唐辛子煮を作る。白ねぎは1cm幅の斜め切りにする。フライパンを火にかけて油をひき、白ねぎを強火で炒める。両面に焦げ目がついたら、調味料を加えて一気にからめる。汁気がなくなったら一味唐辛子をふりかけ、火からおろす。
5.鍋を火にかけて油をひき、しいたけを入れて炒める。続いて水気をよく絞った切り干し大根と大豆を加え、残っている水分を飛ばすように炒める。出汁と調味料を加えて強火にし、沸いたら中火にして、食感が残るように一気に炊き上げる。
6.煮汁が減って味がしみたら火からおろし、白ねぎの一味唐辛子煮、金時にんじんの梅煮と合わせて器に盛る。鍋に残った煮汁でせりをさっといりつけたら2cmに切って散らす。仕上げに2cmに切った芽ねぎを添える。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗