いきなり団子、干しいもの黄身揚げ
さつまいもを使った甘味は既に「
いもきんとん」を紹介しましたが、今日は私の故郷熊本の郷土菓子で「いきなり団子」です。輪切りにしたさつまいもを小麦粉の生地で包んで蒸した菓子で、ほんのり塩味のもちもち食感の生地と、ほくほくしたさつまいも、あんこの甘さが絶妙です。元々はさつまいも農家が農作業の合間に食べていたおやつで、生のさつまいもを生地で包んで蒸しただけの簡単なものでした。
いきなり団子の「いきなり」とは熊本の方言で「簡単・手早く・すぐに」という意味。短時間で簡単に作れて、すぐに出せるというのが名前の由来といわれています。この「簡単・手早く・すぐに」というのは家庭で作る甘味にぴったりですね。今日は、もっと簡単によりおいしくできる方法をお教えしましょう。
最近、スーパーマーケットなどで焼きいも専用の売り場をよく見かけますが、手軽に買えて人気ですね。さつまいもには多くの品種がありますが、焼きいもで注目されているのはねっとり系の「安納いも」やしっとり系の「紅はるか」。水分量が多くねっとりした口あたりと強い甘みが特徴です。加熱するとでんぷんが糖になり水分を逃しにくい状態になるので、冷めても堅くならず長時間おいしさを保つことができます。ほくほくの食感が好きならば「紅あずま」や「紅赤」がよいでしょう。いもらしい風味も魅力です。
一般的ないきなり団子は生のいもとあんを生地で包んで蒸しますが、今回は好みの焼きいもを買ってきて用います。「
いも天の吹き寄せ」でもお話ししましたが、同じさつまいもでも、石焼きいもと蒸したものとでは、そのおいしさがまったく違い、でき上がりの甘み(糖度)が大きく変わります。家庭ではなかなか上手に作れない焼きいもが手軽に買えるようになったので、それを活用して「簡単・手早く・すぐに」蒸したてホカホカのいきなり団子を作りましょう。
それからもう一品、干しいも(「
わけぎと干しいものぬた和え」参照)を使った甘味もお教えします。さつまいもには「十三里」という異名が昔からあります。「栗(九里)より(四里)うまい十三里」とのこと。このダジャレ、ちょっと無理くり(六里九里)すぎませんか(笑)? 今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「いきなり団子」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・生地は合わせた後、20~30分ねかせるとのびやすくなる。
・焼きいもの甘さに合わせて、粒あんの量を加減する。
・「干しいもの黄身揚げ」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み 塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・黄身揚げの衣は堅めに作る。薄い衣だと揚げている間に粒あんや干しいもの糖分で表面が焦げてしまう。
「いきなり団子」(左、右下)
【材料(5個分)】・焼きいも(市販品。直径4.5~5cmのもの) 1本
・粒あん(市販品でもよい) 100g
作りやすい分量:小豆300g、砂糖300g、水あめ20g
・生地
薄力粉80g、白玉粉40g、水80cc、砂糖大さじ1/2、塩小さじ1/3
【作り方】1.焼きいもは皮をむいて両端を切り取り、1cm幅の輪切りにする。
2.粒あんを作る。大きめの鍋に1.5Lほどの湯を沸かし、洗った小豆を入れて沸いたら火を弱め5~6分炊く。水を1Lほど加えて湯の温度を下げ、小豆の表面と内部の温度を近くして小豆全体に均一に火が入るようにする。強火にして、沸いたら火を弱めて5~6分炊き、茹で汁が茶色くなってきたら、小豆をざるに上げて渋切りをする。別に沸かしておいた湯1.5Lにざるに上げた小豆を入れて、あくをすくいながら踊らないように弱火で炊く。途中で茹で汁の味を確認して、再度渋切りをするかどうか判断する。小豆が柔らかくなったら、ざるに上げ水気をきる。この段階まで最初から1時間くらいかかる。鍋に柔らかくなった小豆と水350~400ccを入れて火にかけ、砂糖の1/3を加える。沸いたら火を弱め、時々木べらで混ぜながら炊く。残りの砂糖を2回に分けて加え、水分がとんで木べらで混ぜた際に鍋底が見えるくらいになったら、水あめを加えて混ぜ火からおろす。バットに広げ、水で濡らして絞ったクッキングペーパーをかぶせて冷ます。「
蓮餅」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
3.生地を作る。ボウルに白玉粉と水の半量を入れてダマが残らないようによく混ぜてこねる。薄力粉と塩を加えて残りの水を少しずつたしながらよくこねる。生地が耳たぶくらいの堅さになったらボウルにラップをして20~30分常温で休ませる。
4.まな板の上に焼きいもを並べ、粒あんを20gずつのせる。
5.生地を5等分して麺棒を使って10cmほどの円形に広げる。
6.まな板に生地を並べ、4のさつまいもを粒あんを下にしてのせる。生地を少し引っぱりながら包んでとじる。
7.四角く切ったオーブンペーパーの上にとじ目を下にしてのせ、蒸し器に並べる。中火で10~15分蒸す。生地に火が通り、中身のさつまいもとあんが熱くなったら、蒸し器から出して器に盛り、あつあつを供する。
「干しいもの黄身揚げ」(右上)
【材料(5個分)】・干しいも(平たい「平干し」タイプ 4枚 「
わけぎと干しいものぬた和え」参照)
・粒あん(「いきなり団子」と同じ) 適量
・黄身揚げの衣
卵黄2個、水30cc、薄力粉40g
・揚げ油 適量
【作り方】1.干しいもは3cm×3cmほどに切ったものを10枚用意する。
2.好みの量の粒あんを干しいも2枚で挟んで軽く押さえてくっつける。
3.黄身揚げの衣を作る。ボウルに卵黄を入れて水を加え泡立て器で混ぜる。薄力粉を加えて泡立て器で練るように混ぜる。
4.フライパンに揚げ油を入れ170℃に熱する。2の干しいもに黄身揚げの衣をつけて油に入れ1分ほど揚げる。衣がカリッと揚がったら油から上げて器に盛って供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。