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すりおろした聖護院かぶらに、白い具材をたっぷりと。見た目も美しい冬のごちそう

2022.02.27

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プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。一覧はこちら>>

かぶらの雪鍋


かぶらの雪鍋

かぶらの雪鍋を紹介します。細かくすりおろした聖護院かぶらを加えた出汁で、薄切りにした聖護院かぶら、白菜、豆腐などを、『碧巌録』(へきがんろく。中国の仏教書)第13則の「銀盌裏盛雪」(ぎんわんりにゆきをもる)にならって純銀の鍋を用いて炊きました。

かつてヨーロッパ貴族は銀食器を愛用しました。青酸カリやヒ素化合物などの毒が料理に混入されると銀が反応して変色するため、暗殺から身を守ると同時に、客を食事に招待する場合は毒が入っていないという証明にもなったようです。


銀器は空気に触れることによる硫化で変色するため、光り輝く状態を保っている家は手入れをする家臣がいる、すなわち経済力のある家という証しでもありました。日本でも北大路魯山人(きたおおじろさんじん)の星岡(ほしがおか)茶寮や銀茶寮では、調理に銀鍋を使用したようです。魯山人の場合は目的が異なり、鉄鍋や銅鍋、合金の鍋と違って、銀鍋は料理の味に影響を与えにくいことがその理由だったそうです。

さて、先に述べた「銀盌裏盛雪」です。白銀の碗に純白の雪を盛ると、碗と雪とはそれぞれ別のものでありながら、どちらも白いために見分けがつきにくくなり、同じ一つのもののように見えます。では全く同じものかといえば、碗は碗、雪は雪でそれぞれ別個のもの。二にして一、一にして二。

「しっかりと目を懲らさないと見極められないものがある。心の目も見開いて違いを見逃すな。そしてゆったりと全体を見渡すがよい」ということだそうです。

禅の教えは私には難しすぎますが、料理に置き換えればなんとかわかります。白い素材ばかりでどれも一緒に感じますが、よく味わうとかぶにはかぶの味があり、白菜は白菜、豆腐は豆腐の味がします。それぞれの違いを楽しみながら、かぶの出汁で一体化した雪鍋を堪能するということでしょうか。

かぶらの雪鍋

かぶは痩せた土地でも早く大きく育ち、葉も茎も根も食べられ栄養価も高いため、『三国志』の天才軍師、諸葛孔明(しょかつこうめい)が目をつけました。大軍を率いた南征の際には、野菜不足による兵士の衰弱の打開策として、かぶを兵舎の周りで栽培させながら軍を進めました。帰国後も各地で育てさせ、それがかぶの人工栽培の始まりといわれます。

かぶは漢字で書くと「蕪」で、「荒蕪地(こうぶち。雑草が茂った荒地)」などの言葉にも使われるように、「粗雑な」という意味があります。今のかぶは「粗雑」というイメージとは真逆で、柔らかな肉質、上品な味わいでこんな繊細な野菜はありません。“蕪”は雪鍋のように、自身は“無”いかのように「アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニ入レズニ(『雨ニモマケズ』宮沢賢治)」、それでも他をもって代えがたい圧倒的な働きをします。「そういうものにわたしもなりたい」(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。


ちょっとしたコツ


・「かぶらの雪鍋」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激

・かぶらの皮は厚めにむく。皮の下には堅い繊維があり、舌触りが悪く苦みが残る場合がある。

滑らかな口あたりにするには、細かい目のおろし金でかぶらをすりおろす。

・すりおろして時間がたつとにおいが出るので、出た水分を軽くきったらすぐに用いる

・油分が欲しければ揚げとろろを加えてもよい。「おとしいもの味噌汁」参照。

・残った皮や茎は「千枚漬け」で紹介した大阪漬けにするとよい。







「かぶらの雪鍋」


かぶらの雪鍋

【材料 3人分】
・雪鍋の鍋出汁
聖護院かぶら(普通のかぶでもよい) 2/3個(すりおろして水分を軽く絞って300g) 出汁800cc、塩2g、薄口醤油大さじ1と1/3、日本酒大さじ3、みりん小さじ1/2

・聖護院かぶら(普通のかぶでもよい) 1/3個

・白菜(葉) 1/3個分

・白菜(葉元) 1/3個分

・せり 1〜2束

・絹ごし豆腐 1丁

・柚子 適量

【作り方】
1.聖護院かぶらは葉茎を落とし、黄色い堅い繊維がなくなる部分まで、5mmほどの厚さで皮をむく。かぶらを縦半分に切り、葉がついていたほうを上にしてスライサーにセットして手のひらで押さえ、3~4mm厚さにスライスする。「千枚漬け」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真参照。

2.白菜は芯から葉を外す。外側の葉は筋が堅い場合があるので、葉元の先をつまんで筋と膜を取り除く。葉元の白い部分のみを三角に切り取り、柔らかい葉と分ける。三角に切り取った葉元部分は、繊維にそって縦に5mm幅に切る。柔らかい葉の部分は4cm四方に切る。「白菜の即席漬け、煮びたし柚子こしょう和え」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真参照。

3.せりは根の部分を切り落とす。葉先や上のほうの柔らかい茎の部分と下のほうの太い茎の部分に分けて食べやすい長さに切る。絹ごし豆腐は食べやすい大きさに切る。

4.柚子の皮は白い部分を2mmほどつけて3mm角に切る。

5.雪鍋の鍋出汁を作る。皮を厚めにむいたかぶを細かい目のおろし金ですりおろし、クッキングペーパーをのせたざるに上げる。クッキングペーパーの上から軽く押さえ水気をきる。「野菜のかぶら蒸し2種」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真参照。土鍋などに出汁と調味料を入れて火にかけ、沸いたらかぶらを加える。再度沸いたら中火に弱め、あくを取りのぞき具材を加える。具材に火が通ったら柚子を添えて食する。スライスしたかぶらは、歯ごたえが残るくらいの堅さで食べたほうがおいしい。

私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。

六雁(むつかり)

榎園豊治さんプロフィール
銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。

六雁 むつかり

東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:http://www.mutsukari.com

六雁 むつかり 料理長、秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。
文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗
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