桜井久美さんによる火の鳥の衣裳のデザイン画。数々の才能が集結した“バレエ・リュス”のように
1910年にパリのオペラ座で初演された『火の鳥』は、バレエ・リュスの創設者として知られる名プロデューサー、セルゲイ・ディアギレフが手がけた名作です。
バレエ・リュスとは、1900年代初頭にパリで旗揚げし、現代のモダン・バレエの基礎を築いたバレエ団。ニジンスキー、バランシンなどの有能な舞踊家、振付家はもちろん、『火の鳥』の作曲者でもあるストラヴィンスキーをはじめドビュッシーやサティなどの音楽家、そして舞台美術にパブロ・ピカソ、衣裳にココ・シャネルと、様々なジャンルのアーティストが集結し、その影響は現代にまで及んでいます。
今回、山本康介さんが『火の鳥』の映像デザインに『家庭画報』をはじめラグジュアリー誌や広告でも活躍するフォトグラファーの笹口悦民さん、衣裳デザインにパリ・オペラ座の衣裳部で学び多くの舞台作品を手がけてきた桜井久美さんを起用したのも、バレエ・リュスのような“才能と才能のかけ算”を狙ってのことなのでしょうか。
「歴史の中でバレエは、舞踊だけで発展したわけではなく、音楽や美術や衣裳など、お客様が見たいと思うその時代ごとの要素を意識しながら創作されてきました。『火の鳥』という名作を現代のお客様に響くように再創造するには、映像や衣裳などに新しいエッセンスを取り入れたいと思ってのプロジェクトチームです」
(左)火の鳥役の中森理恵さんとイワン役の濱本泰然さんのリハーサルにも熱が入ります。(右)衣裳合わせのひとコマ。自分の好きなバレエを見つけられる「トリプル ビル”」
今回の公演は山本康介さんによる『火の鳥』に加え、『Octet』に『WIND GAMES』と、見応えのある小品が3演目並んだ“トリプル・ビル”形式です。
「日本ではバレエの公演というと、古典の名作の長いストーリーを全幕上演するスタイルが主になりがちですが、ヨーロッパのバレエ団ではむしろ、異なる内容の小品をあわせて上演する“ダブル・ビル” “トリプル・ビル”の方が一般的になってきています。いくつかの作品の中から自分の好きなスタイルを見つけるためにも、文化的な教養を身につけるためにも、今後はこうした形式の公演が日本でも増えていくと良いなと思っています」
いつか次の時代の“古典名作”になるかもしれない山本康介版『火の鳥』の世界初演は、バレエの世界に、そして私たちの心にどんな希望の光を届けてくれるのでしょうか。