いちごの田楽、白和え、カットいちご
12月頃から店頭に出始め、2月くらいまでは高価だったいちごも、今は値段も下がり求めやすくなってきました。本来のいちごの旬は3月~4月でしたが、需要が爆発的に増えるクリスマスに合わせてハウス栽培の技術や品種改良がなされ、最盛期はどんどん早くなりました。今ではほとんどのいちごが露地栽培ではなく促成栽培です。
これまでいちごを「
海老いもきんとん、大和いもきんとん」と「
ぜんざい2種」では甘味に、「
ヤーコンとクレソンの酒粕白酢和え」では料理に用いました。今日はいちごを使った料理を2品紹介します。
料理にいちご?という先入観があるかもしれませんね。しかし、いちごが野菜だとしたらどうでしょう。いちごはメロンやすいかと同じく、園芸学では野菜に分類されます。日本では木になるものを果実とし、畑で作る草本類(そうほんるい)を野菜と定義しているからです。農林水産省の作物の統計調査でも、いちごは野菜に含まれています。一方、市場では果物として扱われ、流通上は果物の分野となり「果実的野菜」とも呼ばれています。
私たちが果実だと思って食べている甘い部分は、果実ではなく花托(花の付け根部分)です。表面にある粒々の一つひとつが果実で、いちご一粒には200〜300個の果実があることになります。
蘊蓄(うんちく)はもういいからという声が聞こえてきそうなので、これくらいでやめて、今日は料理だけでなく果物としての供し方も紹介します。
鮮度のよいいちごのヘタは、緑が鮮やかでぴんと先が立って美しいものです。いちごの飾りに食べもしないミントを添えるくらいなら、切り方に一工夫を施して、ヘタをつけたまま盛ったほうが美しいでしょう。今のいちごは甘いので砂糖はいらないかもしれませんが、必要な方のためにお洒落な砂糖の添え方もお教えします。
これで、来客にも自信を持っていちごをお出しできますね。お礼などいいですよ。こうしてこの連載をお読みいただいたのも“いちご(一期)”一会のご縁ですから(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「いちごの田楽」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・いちごは常温にしておく。
・いちごに火を通し過ぎないように、予熱したオーブントースターで味噌に焦げ目をつける。
・こしょうの辛みが甘みを引き締め、よい酒の肴になる。
・「いちごの白和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・最中の皮はオーブントースターでこんがり焼き、食べる直前に白和えを盛ると香ばしく食べられる。
・こしょうのようなピリッとしたさわやかな辛みがあるペッパークレススプラウト(クレソン、こしょう草の新芽)が全体を引き締める。手に入らなければこしょうでもよい。
・「カットいちご」
・いちごはボウルに入れた水で軽く洗う程度で十分。洗い過ぎると表面に見えない傷がついて香りや甘さが失われる。
・冷蔵庫でいちごを冷やし過ぎると味を損なう。新鮮なものを求めて常温に置き、食べる30分~1時間ぐらい前に冷蔵庫で冷やすとおいしい。
・いちごは供する直前に切る。
・コワントローやラズベリービネガーを加えた砂糖は球状にしておくと、砂糖が不要の場合に取り除きやすい。あらかじめ作っておいてもよいが、冷蔵庫に入れるとしまって堅くなる。
「いちごの田楽」(右)
【材料(3人分)】・いちご 6個
・玉味噌(白) 適量
作りやすい分量:西京味噌500g、卵黄5個、砂糖30g、日本酒200cc
「
生姜味噌」参照
・こしょう 少々
【作り方】1.常温のいちごのヘタを切り取り、縦に半分に切る。
2.断面を下にしたいちごの上に玉味噌を少量ずつのせる。
3.予熱したオーブントースターで、玉味噌に焦げ目がつくくらいに焼く。器に盛り、こしょうをかける。
「いちごの白和え」(左)
【材料(3人分)】・いちご 2個
・白和えの衣 適量
作りやすい分量:絞り豆腐(木綿豆腐の水分をしっかりと絞ったもの)140g、いり白ごま(香ばしくいる)20g、塩少々、薄口醤油小さじ1、砂糖小さじ2(好みで増減)
・最中の皮(市販品) 3枚
・キウイ 適量
・ヤーコン 適量
・カシューナッツ(粗く刻む) 適量
・ペッパークレススプラウト(こしょうでもよい) 適量
【作り方】1.いちごのヘタを切り取り8mm角に切る。キウイとヤーコンはそれぞれ皮をむいて6mm角に切る。
2.白和えの衣を作る。豆腐に重しをして水分を除く。ガーゼ(水きりネットでもよい)で豆腐を包み、さらに乾いた布巾で包んで水がきれるバットにのせ、その下に出た水分を受けるバットを敷く。上から重めの重しをのせ、冷蔵庫に入れ半日ほどかけて水分を除く。途中で布巾の水分を絞る。水分が抜けて、豆腐のかさが最初の半分ほどに減ったらよい。
3.すり鉢にいりたての白ごま(市販品のいりごまを弱火で軽くいり直したもの)を入れ、すりつぶす。ペースト状にする必要はなく、少し歯ごたえが残る程度(市販のすりごまくらいの状態)でよい。そこに2の豆腐を加えてよくすり、ごまと一体化させると同時に滑らかにする。すり鉢がない場合はミキサーを使ってもよい。調味料を加え、好みの味にする。「
トマトの白和え」参照。
4.最中の皮をオーブントースターでこんがり焼き、白和えの衣をのせる。いちご、キウイ、ヤーコン、カシューナッツを上に散らし、ペッパークレススプラウトを添えて器に盛る。
「カットいちご」
【材料(3人分)】・いちご 9個
・フロストシュガー 適量
・コワントロー(オレンジリキュールでもよい) 少々
・ラズベリービネガー 少々
【作り方】1.いちごは供する30分~1時間ぐらい前に冷蔵庫で冷やす。ボウルにためた冷水で軽く洗い水気を切る。
2.ヘタの部分を持って付け根にV字型に包丁を入れヘタを外す。いちごの大きさに応じて縦に2〜4等分する。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。切ったいちごを合わせて元の姿に戻しヘタもつける。
3.2種の砂糖玉を作る。フロストシュガーにコワントローとラズベリービネガーをそれぞれ少量加えてよく混ぜ、やっと固まるくらいの堅さにして玉にする。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
4.2のいちごを器に盛り、コワントロー(写真左)とラズベリービネガー(写真右)の砂糖玉をのせて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。