謎解きの楽しさをともに味わう
題名の“奇蹟”は、主にキリスト教で使われる言葉で、神がその力を人々に示すために起こす超自然現象のこと。常識では考えられない不思議な現象を表す“奇跡”という字とは異なるニュアンスの意味を持っている。
北村 想さんの脚本にはこの2つの漢字表記が混在している。ト書きや括弧でくくられた説明が多いのも彼が手がける作品の特徴らしいが、脚本にある言葉がどのように表現されるのかは演出家と演じ手に委ねられている。
「僕らからすれば台詞以外に書かれていることをすべて読みたいくらいで、そうしたほうが理解は深まると思います。でも、演劇というものは全部わかるようにすればいいというものでもないんです。どちらの“キセキ”を指しているか、あるいはこの英語はどういう意味を持つのかといった疑問があったとしても、物語が進んでいけるのも演劇ならでは。全部を説明する必要はないと僕は思います。
作品にはいろんな要素がありますが、最終的には“解決した先に何があるのか”という視点が必要なのではないかと思います。人は大変な世の中を生きていくうえで、どうしても奇跡を求めてしまうもの。僕はこの作品の稽古、そして本番を通して、奇跡だけを追い求めるのか、あるいはそれがなくてもそれなりに楽しく生きていくことができるのかということについて考えられたらいいなと思っています。自分の人生とも重ね合わせることができるテーマが描かれている作品です」
「劇場で体験した“物語”に、ご自身の“奇跡”を見つけていただきたいです」── 井上芳雄
コロナ禍になって早2年。当たり前だったことが“奇跡”のように感じる今にふさわしいメッセージが詰まっている。
「今は、初日が開いたら千秋楽を迎えるということすら奇跡だと思います。我々は後世に遺るようなことでなくても、一人一人が小さな奇跡を起こしている。お客さまにも、一緒に物語の謎解きをしながら、思ってもみない豊かな泉のようなものを見つけていただきたい。それが演劇だと思います」
井上芳雄/いのうえ・よしお
1979年、福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科在学中に『エリザベート』のルドルフ役でデビュー。以後、その高い歌唱力と存在感からミュージカルを中心とした数々の舞台に出演。またコンサートなどの音楽活動や映像作品など幅広いフィールドで活躍。TBSラジオ『井上芳雄 by MYSELF』(日曜22時〜)のパーソナリティも務めている。
シス・カンパニー公演
『奇蹟 miracle one-way ticket』
『奇蹟 miracle one-way ticket』のポスターより劇作家の北村 想と寺十 吾の演出、シス・カンパニーによる最新作は、新たなオリジナル戯曲『奇蹟 miracle one-way ticket』。警視庁のコンサルタントも務める名探偵の法水連太郎が残した書き置きを見て、ストーリーテラーも務める親友で医師の楯鉾寸心はその後を追い、深い森へと迷い込んでしまう。傷を負って深い眠りについた法水を見つけ出したものの、彼は記憶を失ってしまっている。そんな2人がどんな「奇蹟」の謎解きを成し遂げるのか......。出演は井上芳雄、鈴木浩介、井上小百合、岩男海史、瀧内公美、大谷亮介。
世田谷パブリックシアター(東京)〜2022年4月10日
森ノ宮ピロティホール(大阪)2022年4月13日〜17日
S席1万円ほか
シス・カンパニー:03(5423)5906(月曜〜金曜 11時〜19時)
URL:
https://www.siscompany.com/produce/lineup/kiseki/※この情報は、掲載号の発売当時のものです。最新情報は公式サイト等でご確認ください。 表示価格はすべて税込みです。
撮影/岡積千可 構成・文/山下シオン スタイリング/吉田ナオキ ヘア&メイク/川端富生
『家庭画報』2022年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。