松岡さんの生きがい「応援」も幸福寿命を延ばす
松岡 先生は将来、スーパーセンテナリアン(110歳以上の長寿者)になられますか?
伊藤 それは無理だと思います。毎年やっている検査の結果からも、寿命はそれほど長くないのではと思っています。結構健康に悪いことをいっぱいしていますし。
松岡 えー、長寿のご専門なのに、健康に悪いことをいっぱい?(笑)
伊藤 いやぁ、考え方の問題でして(笑)。健康であることを何より幸せに感じる人は生活を律して健康を維持すればいいですが、僕の場合、自分がしたいことをすることが幸せなんです。ただ、幸福感は長寿に通じますから、案外長生きできるかもと期待しているところはあります。医者がいうべきことではありませんね。
松岡 先生は平均寿命、自立して社会生活が営める健康寿命とは別に「幸福寿命」を提唱されていますね。
伊藤 「幸せを感じていられる期間」を幸福寿命と定義して、人生でいちばん大切だと考えています。健康寿命との違いを聞かれることもありますが、健康でも不幸せだという人はたくさんいますよね? その一方で、ガンで余命1年といわれながら、輝いて生きていらっしゃるかたもいます。それと、最近わかってきたのが「幸せな人は長生きする」ということです。
松岡 となると、伊藤先生は幸せじゃないということになりませんか?
伊藤 いえいえ、幸せですよ。でなかったら、僕の寿命はきっともっと短いです(笑)。幸せの要因はいろいろあると思いますが、一つは間違いなく、わくわく感です。自分が楽しい、心地いいと思うことをしたり、誰かとつながることからわくわくは生まれます。
「おすすめは“推し”を持つこと。生活に張りが出ます。」── 伊藤先生
松岡 僕は応援が生きがいで、応援した人が喜んだり、夢を叶えたりすることがいちばんわくわくします。
伊藤 応援はいいですね。好きで応援したいと思う“推し”の存在は大きいです。ある高齢者施設で地元のサッカークラブを応援する活動を始めたら、みなさん嬉々として参加して、認知症の人もしゃきっとされたそうです。選手たちがオフのときに施設を訪ねたら、泣いて喜ばれたと聞きました。
松岡 まさに応援の力ですね。
伊藤 一緒に応援することでみなさんの距離が近づくのもいいところです。
松岡 僕は今日、先生とお話ししたことで前向きで幸せな気持ちになれました。先生はこれから、どんな幸せを周囲にもたらしていきたいですか。
伊藤 その人その人が幸せで健康に生きられるようなアドバイスをしていきたいです。正直にいうと、そうすることで感謝されたい、大事な人だと思われたいという気持ちもあります。だって、誰かからそんなふうに思われるって幸せなことじゃないですか?
松岡 はい、間違いなく幸せです! 今日はわくわくするいいお話をありがとうございました。
幸せな百寿者になるには──
●五感を磨き、臓器の声を聞く
●高齢者は少し太めくらいがいいと心得る
●自分が何を幸せに感じるかを知る
●楽しいこと、心地よいことを行う
●好きで応援したいと思える“推し”を持つ
●人とのつながりを大切にする
修造の健康エール
今の世の中は健康に関する情報が溢れていて、正反対のことをいう人たちもいますから、何を信じていいか迷ってしまうのは、僕だけじゃないと思います。伊藤先生にその悩みを話したところ、自分の体の声を聞くことと、SNSなどの情報に踊らされないこと、「この人のいうことは信じられる」と思う人の情報を大事にすることをすすめてくださいました。
最後に「ご自身に幸せになるためのアドバイスをされるとしたら?」と尋ねたところ、「すごい質問ですね」と驚かれつつ、「上を向いて歩こうといいたいですね。年を取るとだんだん下を向いてしまうものですが、上を向いていれば、きっといいことがあるよって」とにっこり笑って答えてくださいました。先生、僕も上を向いて歩いていきます!
松岡 修造(まつおか・しゅうぞう)
1967年東京都生まれ。1986年にプロテニス選手に。1995年のウィンブルドンでベスト8入りを果たすなど世界で活躍。現在は日本テニス協会理事兼強化本部副本部長としてジュニア選手の育成・強化とテニス界の発展に尽力する一方、テレビ朝日『報道ステーション』、フジテレビ『くいしん坊!万才』などに出演中。大人気シリーズ『修造日めくり』の最新作『まいにち、つながろう 心と心はノーディスタンス』は全ページ本人による音読(QRコード)付き。ライフワークは応援。
撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/大和田一美〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子 背景イラスト/imagewerks/amanaimages
『家庭画報』2022年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。