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【快楽(けらく)】第1回「恋はいつまで(後編)」。工藤美代子さんが綴る成熟世代のリアル

2022.03.30

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とにかく、その晩、ヒロミさんは妹のマンションに泊った。かけ布団だけ借りてソファに寝るつもりで洗面所に顔を洗いに行った。何気なく棚の上にきれいに畳まれている洗濯物を見た。その瞬間、とてつもなく派手な色がヒロミさんの眼を射たのである。赤、黒、ピンク、オレンジ、など。

「ねえ、あなた、サヨ子はもう75よ。森田先生と何かあったって言ったって、茶飲み友達に毛が生えた程度のものだと思っていたのよ。先生が疲れた時にちょっと立ち寄る憩いの場くらいのものだと。それがね、驚いたじゃないの。私はあんな下着見たことがないわよ。派手派手の色でね、広げてみたら、パンティーやブラジャーのあちこちに穴が空いているの。破けたんじゃなくて穴が空いたのを売ってるらしい。え?そんなこと聞かれたってわかんないけど、つまり大事な部分っていうか隠す部分の布がないのよ。知らないわよ、どこで売っているかなんて。あなたネットで調べてみてよ。とにかくサヨ子が買うはずはないのよね。それと男物のパンツと靴下が4、5枚あったかな。ということは、先生が泊ったりもしてたんじゃない」

まさか、75歳の妹がこんな下着を身につけて先生と戯(たわむ)れていたのかと考えると、ヒロミさんはショックで呆然とした。


余談だが、ヒロミさんに頼まれた私は、その後さっそくネットで女性の下着を検索してみたが、当り前の商品しかヒットしない。そこで女性下着過激と入れてみた。これなら穴空きの下着が出て来るかと期待したが、Tバックとかシースルーとか、そこそこセクシーな下着を着たお姉さんの写真は並んでいるが、すべて週刊誌のグラビアに載っているような既視感のある下着ばかりだ。どうも、サヨ子さんが持っていたのは特殊なマニア向けの店でしか買えないものなのかもしれない。あるいは私の検索の仕方がうまくなかったのだろう。

翌朝になって、ヒロミさんはサヨ子さんのマンションに現れた森田先生と対面した。狂言自殺であることは先生も承知していたようだ。黙ってケバケバしい色彩の下着と先生の私物を畳んでヒロミさんはテーブルの上に置いた。

「いやあ、お姉さんにお恥ずかしいものをお目に掛けまして」と先生は頭を下げるだけだった。

一見すると普通の人である。サヨ子さんは寝室に閉じ籠って出て来なかった。もう二度と妹と関わり合いを持たないでくれと言うと、先生は大きくうなずいて、慌てて下着類をエコバッグにつっ込んで帰って行った。

もともと別れたいと思っていたのは先生の方なのだから、言われなくても二度とは来ないだろう。せめてサヨ子さんに一目会わせてくれとも懇願しなかった。
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