プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 紫キャベツと大豆の酢のもの
紫という色に皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか。神秘的、エキゾチック、あるいは派手というのもあるかもしれませんが、やはり紫といえば高貴という印象が強いような気がします。今日は鮮やかな紫色が目を惹く、紫キャベツを使ったおいしい料理を紹介します。
聖徳太子が定めた「冠位十二階」の制度では、紫が最上位の位階を示す色であったことはよく知られています。奈良・平安時代になると、紫は位の高いものだけが着用できる「禁色(きんじき)」の1つとされました。
日本だけでなく、ギリシャ、ローマと洋の東西を問わず、古代より紫は高貴な色とされたようです。ちなみに寿司屋で紫と言えば醤油のことですが、江戸時代には醤油が高額だったことから、貴重なものの代名詞である紫を、醤油をさす言葉としてあてたという説も。
高貴な色であるとともにどこか妖艶でもある紫、そのミステリアスな魅力に私も知らないうちに魅了されているのか、この連載にも「
かんぴょうのブルーベリー酢漬け」「
パープルフラワーしば漬け和え」「
紫いものきんとん」「
黒豆なます」「
とろろかけ十五穀米」「
海老いもきんとん」「
しみつかれ」など多くの紫色の料理を紹介していました。
紫キャベツは紫~赤紫色の葉で、一般的なキャベツよりも少し小ぶりの、球形か楕円形をしています。葉が密にしっかりと巻いており、一般的なキャベツに比べて葉に厚みがあります。赤キャベツやレッドキャベツともいわれ、カットすると紫と白の美しい断面が見られます。
紫キャベツの紫色は、抗酸化作用があるとされるポリフェノールの一種アントシアニンによるもの。ブルーベリーやなすなどにも含まれ、水に溶け出しやすく、炊くと煮汁が紫色になります。この煮汁は酸性のものを加えると赤くなり、「
黒豆なます」でもこの現象を使いましたね。紫キャベツも酢を使って調味し赤くします。
紫キャベツと大豆の酢のものは、2種の大豆を紫キャベツの上にのせます。えっ、紫の上?『源氏物語』に出てくる理想の女性ではありませんか! あなをかし。私のダジャレはいとわろし(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「紫キャベツと大豆の酢のもの」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・紫キャベツは食べる直前に酢と油で和える。マリネのように漬け込むのは作り置きには向いているが、紫キャベツの甘みと旨みが溶け出してしまう。
・ドレッシングは主に︎塩分、油分、酸味で構成されているが、そこに旨みや甘みが加わると、大量の油を加えなくてもおいしくなる。市販品のノンオイルドレッシングがまさにそうである。塩昆布を加えて油を減らし、すっきりとした味わいにする。
・大豆は風味と甘みを逃さないように、蒸し器で加熱して柔らかくする。時間がない場合は水煮の大豆を用いてもよい。
・好みで粉山椒などの刺激と風味を加えてもよい。
「紫キャベツと大豆の酢のもの」
【材料(3人分)】・紫キャベツ 1/4個(200g)
・塩 小さじ1/4
・酢 大さじ1と1/2〜2(好みで)
・はちみつ 小さじ1〜1と1/2(好みで)
・オリーブ油 大さじ1/2〜1(好みで)
・大豆(水煮でもよい) 24粒
・いり茶豆(手に入らなければ大豆の量を増やす) 18粒
・塩昆布(みじん切り) 適量
・紫キャベツスプラウト(1.5cm長さに切る) 適量
【作り方】1.紫キャベツは芯を切り落とし、3mm幅のせん切りにする。ボウルに入れ塩を加えて軽くもみ、5分ほど置いて出てきた水分を絞る。
2.大豆は水に1時間30分ほどつけてざるに上げる。深皿に入れて蒸気がたった蒸し器で1時間30分蒸す。少量だと作りにくいので多めに作って冷蔵庫で保存し、他の料理に使う。時間がない場合は市販品の水煮の大豆でよい。
3.別のボウルに酢とはちみつを入れて泡立て器で混ぜ、好みの量のオリーブ油を少量ずつ加えて混ぜる。
4.3を少量分けて大豆にまぶして10分ほどおく。
5.3を再度混ぜて、紫キャベツを入れて和える。塩昆布を加え均一に混ぜたら、器にセルクル型を置いて詰める。上に4の大豆といり茶豆をのせ、軽く押さえてセルクルを抜き、紫キャベツスプラウトを添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗