ココナッツ求肥(ぎゅうひ)
今日はココナッツ求肥を紹介します。六雁ではお持ち帰り用に販売もしていますが、色が白いということもあってか、ホワイトデーに注文が殺到し、「
白いマカロン」と人気を二分する菓子です。透かしがある朱塗皿に盛りつけ、男女が寄り添う風情にしました。
求肥はもち粉や白玉粉などを原料とし、餅のような弾力のある食感が特徴です。大福やすあまなどにも使われる古くからある和菓子で、若い人には敬遠されがちな印象がありますが、実際はそんなことはありません。もちもちした食感は若い人も大好きなのですが、従来のままのスタイルでは手を出しにくいのです。
その証拠にいちご大福や求肥が使われたアイスクリームなど、新たな発想と工夫がある甘味は広い世代に支持されています。六雁ではココナッツミルクで求肥を練り、ドライフルーツを加えて仕上げます。
老舗の和菓子屋さんからすれば、邪道ということになるかもしれません。しかし、現在、本道、定番といわれているものも、最初からそうだったわけではありません。茶の湯の世界でも、最初は非常識といわれながら、それが後に伝統の一つとなったケースが数あります。
千利休は、本来は茶の湯の道具でなかった日常の生活用品を茶道具に見立てたということがあり、瓢箪(ひょうたん)を花入として用いた話は有名です。利休にとどまらず、当時の茶人たちも朝鮮半島の雑器を茶碗に使ったり、南蛮貿易でもたらされた品々を転用しました。近代では世界各地の陶磁器やガラス製品なども茶道具として使われています。
何かを取り入れて、新鮮で趣のある試みを加えようとするのが見立てで、伝統を実践しつつ革新を求める、茶の湯の原点とでもいうべき心のようです。
写真の菓子器は椰子(やし)の実でできており、同様のものが江戸期からあります。「名も知らぬ遠き島より流れ寄る椰子の実一つ」(『椰子の実』作詞:島崎藤村、作曲:大中寅二)ではありませんが、その頃の日本にはなかったであろう椰子の実を浜辺で見つけて遠い異国に思いを馳せ、道具に活用したのでしょう。椰子の実は菓子器以外でも花器や莨入(たばこいれ)などにも使われています。写真の奥に写っているものは瓢(ふくべ。瓢箪の一種)で作った酒器です。こうした先人の見立て、工夫、活用には頭が下がります。
求肥は中国から日本にもたらされた当時は、玄米と黒砂糖を使っていたため黒いものでした。牛の皮のように見えたので牛皮と呼ばれたといわれます。その頃の日本は肉食を忌み、牛皮の言葉が受け入れられず、当て字として求肥の名に替えられたとか。
だったら、肥ることを忌みきらう現代に求肥という字のままでいいのでしょうか?(笑) 今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「ココナッツ求肥」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み 塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・求肥の作り方には茹で練り、蒸し練り、手軽な方法としては電子レンジを使うものもあるが、本当においしくできるのは鍋練り。鍋で一から練っていく。
・求肥は少量では作りにくいので、ある程度の量をまとめて作る。冷凍保存すれば日持ちし、柔らかさも保てる。
・火にかけてからは、生地が一体になるまで力を入れてよく練る。
・砂糖は数回に分けて加える。加える度に生地がゆるんで分離するので素早く混ぜてまとめる。
「ココナッツ求肥」
【材料(作りやすい分量)】・白玉粉 115g
・ココナッツミルク 200ml
・生クリーム 50cc
・牛乳 50cc
・上白糖 125g
・干しりんご(5〜6mm角に切る) 15g
・干しあんず(5〜6mm角に切る) 10g
・くこの実 10g
・片栗粉 適量
・おいり(市販品。香川県の郷土菓子。好みで) 適量
【作り方】1.ボウルに白玉粉を入れてココナッツミルクを少しずつ加え、ダマをつぶすように手でよく混ぜる。
2.生クリームと牛乳を3回に分けて加え、均一になるように泡立て器でよく混ぜたら、テフロン加工のフライパン(鍋でもよい)に移す。
3.フライパンを中火にかけ、木べらでよく混ぜながら火を通していく。生地が堅くなってきたら弱火にし、まとまって一体になるまで力を入れてよく練る。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真のように生地が半透明になり、弾力が出てのびる状態になったら砂糖を加える。
4.砂糖は3〜5回に分けて加える。砂糖を加える度に、砂糖が溶けて生地が分離したような状態になるので、素早く練って一体化させる。
5.すべての砂糖を加え終わり、生地が手につかなくなったら火からおろして、干しりんご、干しあんず、くこの実を加えて均一になるように混ぜ合わせる。
6.茶こしに入れた片栗粉を多めにバットにふり、そこに生地を流す。表面にも片栗粉をふってそのまま冷ます。
7.一口大に切って器に盛り、好みでおいりを散らして供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。