ふきの煮もの、富貴飯
今日はふきの料理を2品紹介します。ふきの栽培ものは10月頃から出回りますが、露地ものや自生しているものは春から初夏にかけてが旬です。数少ない日本原産の野菜で近縁種が少なく、中国や朝鮮半島にも分布しています。平安時代から野菜として栽培されていたようですが、盛んに行われるようになったのは江戸時代以降です。
食用とする長い柄の部分を俗に茎と呼びますが、実際は葉柄(ようへい)で、葉と茎の接続部分です。本来の茎は地中に伸びており、そこからから出てくる花のつぼみがふきのとうです。
特有の香りとほろ苦さが特徴で、この連載では「
干し柿なますの煮こごり」を皮切りに「
早春の炒り豆腐」、「
野菜おでん」とふきを用いてきました。これまでは青み(料理全体の色バランスをよくする緑色野菜)としての使い方でしたが、今回からはおいしくなったふきを主とした料理をお教えします。
1品目は煮もので、色を気にせず、おいしく柔らかく炊き上げます。「
冬瓜の揚げ煮」でお話しした高級料亭吉兆のふきの煮もののように、味重視の炊き方です。
2品目はふきの風味を生かした色飯で、語呂合わせで「富貴飯」としました。春に艶やかな大輪の花を咲かせる牡丹の蒔絵の椀に盛りつけています。「
ゆり根の蜜煮」で触れましたが、牡丹は百花の王とされ、「富貴花」ともいわれます。
私もあやかりたいものですが、“富貴”には縁がなさそうなので、“風紀”のほうで「すじのとおった ふーき」(『おべんとうばこのうた』作詞:香山美子、作曲:小森昭宏)と男気で頑張ります(笑)。「筋が通らない男が何を言う、この大ボラ“吹き”!」と叱られそうですね。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「ふきの煮もの」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・ふきは筋が残らないように両端から皮と筋をむく。
・下茹でがたりないと、ふきが変色するので注意。
・ふきの太い部分は色を気にせず炊いてそのまま冷ますと、柔らかくおいしくなる。
・細い部分は太い部分と同じやり方でもよいが、炊いた後、氷水で鍋ごと急冷し食感を残してもおいしい。
・「富貴飯」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・ふきは風味と食感が残るように、飯が炊き上がる直前に、さっと炊いて汁気を除いて混ぜる。
「ふきの煮もの」
【材料(2〜3人分)】・ふき 140g
・油揚げ 1枚
・出汁 300cc
・塩 0.5g
・日本酒 大さじ2
・みりん 小さじ1と1/2
・薄口醤油 小さじ2と1/2
・濃口醤油 小さじ1/2
【作り方】1.ふきは大鍋に寝かせて入る20cmほどの長さに切り、塩(材料外)もみして、太さによるが3~4分茹で、冷水に放し水をきる。上下から皮と筋を取る。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」を参照。
2.ふきを4cm長さに切る。油揚げは7mm幅×4cm長さに切る。
3.鍋に出汁を入れて火にかけ、ふきと油揚げを入れる。すべての調味料を加えて、沸いたら弱火にして10分ほど炊いて、火からおろしてそのまま冷ます。
「富貴飯」
【材料(2〜3人分)】・ふき 60g
・米 2合
・昆布出汁 340cc
・日本酒 大さじ2
・薄口醤油 大さじ1と1/2
・みりん 大さじ1と1/2
・油揚げ 1/2枚
・生姜(せん切り) 25g
・漬け出汁 約200cc
出汁180cc、塩0.3g、薄口醤油12cc、日本酒5cc
【作り方】1.30分以上前に米をとぎ、ざるに上げておく。
2.昆布出汁(飯の炊き上がりの堅さの好みで量を加減する)に調味料を加え、好みの味にする。
3.ふきは「ふきの煮もの」の1と同じように、茹でて皮と筋を取る。3cm長さ×3mm厚さで斜めに切る。
4.油揚げは2枚に開き、みじん切りにする。香ばしさが好みなら、オーブントースターできつね色に焼いて用いる。
5.炊飯器に米と2の出汁、油揚げ、せん切りにした生姜を入れてスイッチを入れる。
6.飯が炊き上がる直前に、沸かした漬け出汁にふきを加えて再度沸いたら5秒炊き、ざるに上げて汁気をきる。
7.飯が炊き上がったら、クッキングペーパーで汁気をもう一度取り除いた6のふきの半量を入れて、飯がつぶれないようふんわりと混ぜ椀に盛る。上に残りのふきを適量のせて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。