たけのこ飯、たけのこの木の芽和え
日本料理には「出会いもの」があることを、これまで何度かお話ししてきました。同じ季節に出回る旬の食材で相性が良いものを組み合わせた、互いの味や香りがより引き立つもののことをいいます。今の時季であれば、味を引き立てあうのはたけのことわかめの若竹煮で、香りを引き立てる組み合わせはたけのこと木の芽(「
たけのこの煮もの」も参照)でしょう。今日は、たけのこと木の芽の組み合わせで2品紹介します。
木の芽は樹木の新芽のことで「きのめ」または「このめ」と読みます。日本料理ではもっぱら山椒の若葉を指し、古くから様々に用いられてきました。また、東北・信越地方などではあけびの新芽のことをいいます。山椒の木の芽はハウス栽培したものが年中出回っていますが、4月~5月が本来の旬です。
山椒はミカン科の低木で、山地の雑木林などに自生します。独特のピリッとした辛さと柑橘系の清涼感のある香りが特徴ですが、葉や花、実のそれぞれに違った味わいがあります。
春に収穫される木の芽(葉山椒)は爽やかな香りがあり、辛みはほとんどありません。山椒は通常、雌株と雄株の木が別で(雌雄異株・しゆういしゅ)、雌株は花が咲いた後に実をつけますが、雄株は実をつけません。
花山椒は雄株の花のつぼみを摘んだものです。優しい香りと生のまま食べると舌がスーッと痺れるような辛みが特徴です。
実山椒は雌株についた実を収穫したもので、香りや辛みが非常に強いのが特徴です。実がまだ若くて柔らかい5月頃に収穫したものは、山椒の佃煮などにも使われます。夏から秋に収穫する赤く熟した実を乾燥させ、皮の部分をすりつぶして粉状にしたものが粉山椒です。
今回はたけのこ飯に木の芽の柔らかい葉のみをむしってふりかけ、竹で作った椀に盛りました。もう一品は、木の芽をふんだんに使った木の芽和えです。木の芽の量に驚かれるかもしれませんが、本来、料理屋の木の芽和えは大量の木の芽を惜しげなく使って、春の風味を楽しんでいただきます。色はきれいだけれど香りがいまひとつ薄いものは、ほうれん草などから取った色素やほうれん草の粉末を大量に加えている可能性があります。
昔から3月から4月にかけてのこの時期は「木の芽時」と呼ばれ、人の気持ちが不安定になるとされますね。私は新芽が一斉に“吹き出す”木の芽時だけでなく常にハイで、読者が“吹き出す”ダジャレを夢見ています(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「たけのこ飯」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・生の上質なたけのこを用いる場合は、たけのこをやや大ぶりに切ったほうがおいしい。
・木の芽も一緒に食べるため、口に残る枝の部分は外して用いる。
・「たけのこの木の芽和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・たけのこの木の芽和えは、たけのこの煮ものを多めに作り、残ったものを転用するとよい。
・木の芽をそのまますり鉢ですると、枝の部分の繊維が味噌の中に残るので、先にみじん切りにしてから使う。
・すり鉢とすりこぎは、使う前に十分に水を吸わせておくこと。木の芽の色がしみ込んでしまう。
・木の芽味噌は時間の経過とともに色が悪くなり香りも低下する。具材と和える直前に作る。
「たけのこ飯」
【材料(3人分)】・米 2合
・たけのこ(茹でたもの) 200g
・昆布出汁 2合
・油揚げ 1/3枚
・日本酒 大さじ1と1/2
・薄口醤油 大さじ1と1/2
・みりん 大さじ1
・木の芽 適量
【作り方】1.30分以上前に米をとぎ、ざるに上げておく。
2.昆布出汁(飯の炊き上がりの堅さの好みで量を加減する)に調味料を加え、好みの味にする。
3.たけのこはぬか茹でして皮をむく。「
たけのこの煮もの」参照。食べやすい大きさに切る。木の芽は枝の部分を外して葉のみにする。
4.油揚げは2枚に開き、みじん切りにする。香ばしさが好みなら、オーブントースターできつね色に焼いて用いる。
5.炊飯器に米と2の出汁、たけのこ、油揚げを加えてスイッチを入れる。
6.炊き上がったら、飯がつぶれないようふんわりと混ぜる。器に盛って木の芽を散らす。
「たけのこの木の芽和え」
【材料(3人分)】・たけのこ(炊いたもの) 120g
・うど 30g
うどの煮汁:出汁200cc、日本酒小さじ2、塩0.5g、薄口醤油小さじ1
・ゆり根 30g
・生麩のみたらし 適量 「
生麩のみたらし」参照
・木の芽味噌 約65g
白玉味噌(作りやすい分量:西京味噌500g、卵黄5個、砂糖30g、日本酒200cc「
生姜味噌」参照)60g、木の芽6g
・くこの実 少々
【作り方】1.たけのこはぬか茹でして皮をむき炊く。「
たけのこの煮もの」参照。1.5cm角に切る。
2.うどは皮をむいて1.5cm角に切り、うどの煮汁で1分30秒ほど炊いて冷ます。面倒な場合は生のままでもよい。
3.ゆり根の下処理は「
ゆり根のかき揚げ、揚げ出し」参照。ゆり根の小さな鱗片を皿に並べて蒸気がたった蒸し器に入れ、3〜4分蒸す。
4.生麩のみたらしを作り、2cm×1cmで7mm厚さに切る。
5.くこの実は日本酒(分量外)を少々ふりかけ柔らかくする。
6.木の芽味噌を作る。木の芽をまな板に広げて包丁でみじん切りにする。すり鉢に入れペースト状になるまでよくする。白玉味噌を加えてよく混ぜ合わせる。
7.クッキングペーパーで汁気を除いた、たけのことうどをボウルに入れ、ゆり根と生麩のみたらしも加えて混ぜる。木の芽味噌を入れて具材にからめるように和え、器に盛ってくこの実を散らし供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。