プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 春かぶ丼、ふきの味噌汁
今日は走りの春かぶを使った丼と、旬真っ盛りのふきの味噌汁を紹介します。「
根深飯、新わかめの味噌汁」の名残と走りの組み合わせに続いて、今だけ味わえる2つの旬菜の共演です。
冬の日本料理に欠かせない聖護院かぶらが2月で終わり、3月〜5月が旬の春かぶが出回り始めました。冬かぶがじっくり育つのに対し、春かぶは気温が上がることで育つスピードが早まり、柔らかくなるので生食にむいています。今日は昆布押しにして旨みを追加した春かぶを、ご飯の上にたっぷりのせて楽しみます。
もう1つの旬菜はふきです。風味豊かで食感もよいふきですが、家庭で味噌汁の具材にすることはあまりないかもしれませんね。油揚げの味噌汁に茹でたてのふきを加えるだけで春らしい味わいになります。一度食べたら、真の美味がこんな身近にあったことに驚かれるでしょう。
春かぶ丼には、海苔を海から収穫したままの状態で乾燥、焙煎した「ばら干し海苔」を添えました。板海苔と違って海苔の細胞を傷めないため、本来の香りと味わいがします。
最近よく聞くようになった俗語「味変」ではありませんが、さらにわさびと梅肉を散らして一口ごとに味に変化をつけます。梅とわさび、どちらか一方だけでもいいのではと思われるかもしれませんが、組み合わせてこそのおいしさがあります。
飲んだ翌朝には、梅干しにおろしたてのわさびを混ぜた「梅わさ」でご飯。かつて花街盛んなりし頃、流連(りゅうれん。遊興にふけって家に帰るのを忘れること)した人の間では錦木(にしきぎ。削りかつおとわさび)と並ぶ朝の定番だったとか。お姐さんが作ってくれる“梅わさ”、そりゃ“うめーわさ”(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「春かぶ丼」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・
昆布押しの昆布は上質なものを使う。かぶに接触する面を裏表に替えれば2度使え、その後も魚の煮つけなどに加えて利用できる。
・昆布は
日本酒で湿らせてから使う。乾燥した状態のままではかぶの水分を吸収し過ぎ、昆布の旨みがしみるのにも時間がかかる。
・
海苔は3大旨み成分である「グルタミン酸」「グアニル酸」「イノシン酸」を含み、少量加えるだけでも旨みが増す。
・「ふきの味噌汁」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・
味噌汁のコツは「沸かさない」「煮えばなを手早く供する」「温め直さない」。「
ゆり根白味噌仕立て」も参照。
・ふきは筋が残らないように
両端から皮と筋を除く。
・
下茹でがたりないとふきが変色するので注意。
・ふきは風味と食感が残るように、
味噌汁を作る直前に下処理し、味噌汁に加えてからも
火を通し過ぎない。
「春かぶ丼」(左)
【材料(2〜3人分)】・米 2合
・水 360cc
・春かぶ 200g
・塩 少々
・昆布(上質なもの) 12cm×2枚
・日本酒 少々
・梅肉 少々
・わさび(市販品のチューブ入りわさびでもよい) 少々
・ばら干し海苔(焼き海苔でもよい) 適量
【作り方】1.昆布に日本酒少量をまぶしかけ15分ほどおいてしんなりさせる。
2.春かぶは皮をむき、3mm角×4〜5cm長さに櫛刃をつけたスライサーで繊維にそってせん切りにする。かぶの重量の1%の塩をふる。水分が出たらクッキングペーパーにはさんで除く。
3.同じ大きさのバットを2枚用意する。バットに昆布を1枚敷いて2のかぶを並べる。その上にも昆布をかぶせ、もう1枚のバットをのせる。輪ゴム数本を束ねて、重ねたバットを数か所留めて重石にし、冷蔵庫に20〜24時間入れておく。
4.米は炊く30分以上前にとぎ、ざるに上げておく。
5.炊飯器に米と水(ご飯の炊き上がりの柔らかさの好みで量を加減する)を入れてスイッチを入れる
6.炊き上がったら、ご飯をつぶさないようふんわりと混ぜる。椀にご飯をよそい、3のかぶをたっぷりのせて梅肉とわさびを散らす。ばら干し海苔を添えて供する。
「ふきの味噌汁」(右)
【材料(2〜3人分)】・ふき 40〜45g
・油揚げ 1/3〜1/2枚
・出汁 400cc
・信州味噌(好みの味噌でもよい) 適量
【作り方】1.ふきは塩(材料外)もみして、太さによるが3~4分茹で、冷水に放し水をきる。上下から皮と筋を取る。「
ふきの煮もの」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」を参照。
2.ふきは3.5cm長さ×3mm厚さの斜め切りにする。油揚げは3cm長さ×5mm幅に切る。
3.鍋に出汁を入れて火にかけ、80℃くらいになったら味噌を溶き入れてふきと油揚げを加える。味噌汁が90℃を超えたくらいで火からおろして椀に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗