平安神宮神苑にて。社殿を囲むように広がる神苑は回遊式庭園で、四季折々の草花の美しさを楽しむことができる。寂聴さんは、この橋殿からの景色がお気に入りだった。特に枝垂れ桜の咲く頃が美しいと話されていた。写真は、家庭画報本誌2000年10月号「瀬戸内寂聴さんが行く『源氏物語』こころの旅」より。写真/梅木則明瀬戸内寂聴1922年、徳島県生まれ。東京女子大学卒業。1963年『夏の終り』で女流文学賞を受賞。1973年、中尊寺で得度受戒、仏子号は寂聴となる。1992年『花に問え』で 第28回谷崎潤一郎賞、1996年『白道』で第46回芸術選奨文部大臣賞、2001年『場所』で第54回野間文芸賞を受賞。『源氏物語』の現代語訳ほか著書多数。2006年、文化勲章受章。99年間才能を開花させ続けた文学者
奇跡のような明るさで
文・林 真理子
つい最近、京都に行く用事があった。
京都駅が近づくにつれ、
「ああ、もう寂庵に先生はいらっしゃらないのだなあ」
という感慨が押し寄せてきた。
それほどしょっちゅう伺っていたわけではない。が、京都のはずれに先生がお住まいで元気でいらっしゃるというのは、どれほど私の心の支えになっていただろうか。
タクシーに乗り、「寂庵まで」というと、たいていの運転手さんが行ってくれた。三十年前初めて訪れた頃は、畑や小さな村があり、それこそ「京のはずれ」であったが、近年急に建物が増えていった場所だ。
が、寂庵の数寄屋門のあたりは、まるで変わっていない。ブザーを押すと、秘書のまなほさんがやってきて、静かに門を開けてくれる。美しい苔のある庭の階段を上がると、先生のお住まいだ。まるで高級旅館のような和のつくり。玄関で靴を脱ぎ左に曲がる。そして短い階段を上がると、そこは応接間になる。高台になっているので、ガラス越しに庭がよく見える。
テレビで映るあの場所だ。
やがて先生が、「いらっしゃーい」と、満面の笑みをたたえて入ってくる。ある時など、わざとドタドタと音をたてて、階段を上がっていらっしゃった。
「秘書の方だと思いましたよ」
「そう思わせようと、わざとやったのよ」
茶目っ気たっぷりに笑われた。確か腰を悪くされ、退院されたばかりだったと思う。不死身のところを見せたかったのだ。
この部屋で先生からいろいろなことを聞いた。
対談の時がほとんどだが、一人で来たことも何回もある。昭和の女性作家を書く時、先生はまさに生き証人だったのだ。
時には話があちこちに脱線する。それがあまりにも面白いので、
「先生、本当ですか」
何度もお聞きしたものだ。
「本当よー。本当にすごかったんだから」
あの独特のかん高い声が、急に早口になった。
先生はサービス精神旺盛な方で、人を喜ばせるのが大好きだった。話をかなり盛るし、テレビに出るのもお嫌いではない。
先生の国民的人気は、メディアに数多く出ていたことによるのは間違いないことだろう。女性週刊誌などいくつもの雑誌に連載を持ち、説法もなさった。テレビで芸能人の方々とも楽しくお喋りをする。