アルツハイマー型認知症の経過は10~20年と長い場合もありますが、周りの人の接し方次第で、症状の程度を軽減できます。認知症の人が安心できるサポートを。──洋さん
アルツハイマー型認知症のもう一つの症状である「行動心理症状」は、記憶障害などの中核症状に伴って現れるもので、抑うつ、興奮、徘徊、睡眠障害、妄想、せん妄などの症状がみられます。どの人にも現れる中核症状に対し、行動心理症状はすべての人に起こるわけではありません。
アルツハイマー型認知症の初期によくみられる行動心理症状には「物盗られ妄想」があります。記憶障害のため物を置いた場所を忘れ、誰かに盗られたと思い込んで周りの人を責め立てるといった行動です。これらの症状は日常生活で不安やストレスが多かったり、介護環境が整っていなかったり、体の不調があったりすると起こりやすいとされています。
認知症の本質は暮らしの障害。周りの接し方で症状が軽減
和夫さんは、医学的にこのような特性のある認知症の本質を「暮らしの障害」であるととらえていました。それまで当たり前のようにできていた普通の暮らしができなくなっていくことであり、それが認知症の人や家族にとっていちばんの困り事であると。しかし、「この暮らしの障害の程度は周りの接し方次第でずいぶん軽減できる」とも説いています。
父・和夫さんの主治医でもあった洋さん。診療室に残された和夫さんのカルテをめくり、認知症の経過を振り返る。父は、認知症になった人に対して周りの人がこれまでと同じように接することが大切だと常々申しておりました。そして、認知症の人が生きやすい社会を目指してパーソン・センタード・ケアの普及に力を注いできた父は、周りの人が接するときのポイントについてこんなことを書き残しています。
「人は次に何をするべきかわからなければ不安になります。自分がその人の立場ならどうだろうかと考えて次にすることをきちんと説明してあげる。これが重要です。そういう接し方をしてくれると認知症の人はとても安心します」。
撮影/八田政玄 取材・文/渡辺千鶴
『家庭画報』2022年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。