ふきの筏(いかだ)揚げ、ふきのとう味噌かけ
春の代表的な野菜のひとつであるふきですが、野菜売り場の隅っこに置かれているのが残念です。料理の仕方がわからない、なんとなく面倒くさそうというのが理由でしょうか? そのためにこの連載があります。せめて読者の皆さまだけでも、ふきを愛でおいしく召し上がってください。
「春の皿には苦味(くみ)を盛れ」といいますね。人間の体は気候が暖かくなると新陳代謝が活発になり、冬の間にため込んだ脂肪や老廃物を排出し、春の体へと変化しようとします。それを助ける働き、新陳代謝の活性化、抗酸化作用、デトックス効果が、苦みをもつ食材にはあるとされます。
苦みがある春の野菜には山菜などいろいろありますが、ふきが一番身近で手に入りやすいのではないでしょうか。
ふきを使った料理で思いつくものといえば、一般的には煮もの(「
ふきの煮もの」)やひたし、品種を替えれば山蕗(やまぶき)の伽羅蕗(きゃらぶき。佃煮)といったところでしょう。前にお教えした「
富貴飯」や「
ふきの味噌汁」もおいしいですね。ふき料理はまだたくさんありますが、今回は酒の肴にもなる天ぷらとふきのとう味噌かけをお教えしましょう。
この連載では、「酒の肴にもなります」というフレーズをわりとよく使いますが、酒の肴と飯のおかずには違いがあります。たとえばビールには塩が効いた料理が合います。これは人体のミネラルバランスと関連があり、カリウムとナトリウムの比率がポイントになります。
ビールにはカリウムが多く、ナトリウム(塩分)の約20倍も含まれています。人の血液における比率は、その真逆でナトリウムが多く、カリウムの16倍ほどの量を含んでいます。人の細胞は自分に少ないカリウムを取り込み、ナトリウムを細胞外に出そうとするのが常なので、成分比率が真反対のビールを多く飲めば飲むほど、ナトリウムが不足します。そこでバランスを元に戻そうと、ナトリウムを多く含む塩っぱいものが欲しくなるのです。
ですから、ふきを茹でたままではなく、炊いてから天ぷらにしたり、ふきのとう味噌で味を追加するとよい酒の肴になるのです。油分も加わりますから、そりゃもう箸が止まらず、酒も進みます(笑)。
冬眠から目覚めた熊が最初に口にするのが「ふきのとう」だとか。眠っていた体を目覚めさせる自然の知恵なのでしょう。よく熊みたいといわれる私ですが、やはり苦みのあるものが大好きです。くせの強い人間はくせのあるものが好きと家内にいじられます。くせじゃなくて苦み走っているんだって(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「ふきの筏揚げ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎︎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・ふきは筋が残らないように両端から皮と筋を除く。
・炊いたふきを天ぷらにする。
・ふきは多めに炊いて煮もので楽しんだ後、流用するとよい。
・カリッとした仕上がりにするため、煮汁をしっかりと拭いて揚げる。
「ふきのとう味噌かけ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎︎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・少量の玉味噌は、鍋では温めにくく焦げやすいので電子レンジで温める。
・揚げたふきのとうの外葉は、苦みが少ないので多めに添えるとおいしい。
「ふきの筏揚げ」(左)
【材料(2人分)】・ふき(炊いたもの) 4cm×18本
・天ぷら衣
薄力粉100g 冷水100cc 卵黄1個
・薄力粉 適量
・揚げ油 適量
・塩(好みで) 適量
【作り方】1.ふきは「
ふきの煮もの」を参照して炊く。
2.ふきが味を含んだら、煮汁から上げて汁気をクッキングペーパーで拭いて除く。4cm長さに切りそろえ、3本を1組にして楊枝を2本刺して留める。
3.天ぷら衣を作る。ボウルに入れた冷水に卵黄を加え、泡立て器でときほぐす。そこに薄力粉を加えて粘りが出ないようにさっくりと混ぜる。ベジタリアンは卵を用いなくてもよい。
4.ふきに薄力粉を薄くまぶして天ぷら衣をつけ、170℃に熱した揚げ油に入れて揚げる。途中で返して、出る泡が少なくなりカリッと揚がったら油から上げてクッキングペーパーに広げて油をきる。好みで塩をつけて食する。
「ふきのとう味噌かけ」(右)
【材料(2人分)】・ふき(炊いたもの) 7cm×10本
・玉味噌(赤) 適量
作りやすい分量:赤出汁味噌500g、卵黄10個、砂糖200g、日本酒350cc、みりん100cc
「
生姜味噌」参照
・ふきのとう 1〜2個
・揚げ油 適量
【作り方】1.ふきは「
ふきの煮もの」を参照して炊く。
2.ふきのとうの柔らかい外葉を素揚げにする。フライパンに揚げ油を入れて160℃に熱する。ふきのとうは、つぼみを包む外葉を閉じた状態でぬれ布巾で拭いて、汚れを取り除く。一番外の葉が堅いようであれば除き、つぼみのまわりの柔らかい外葉を外す。油に入れてカリッとなるまで素揚げし、クッキングペーパーに広げ余分な油を除く。
3.玉味噌(赤)を耐熱皿に適量入れ、出汁(材料外)で好みの堅さにのばし、電子レンジで温める。
4.ふきが味を含んだら煮汁から上げ、6.5cm長さに切りそろえる。煮汁とともに鍋に入れて温め直し、そろえて器に盛る。上から玉味噌(赤)をかけ、ふきのとうの外葉を添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。