新玉ねぎのステーキ、焦がし焼き
今日は新玉ねぎを2通りの焼き方で味わいます。どちらにも共通するコツが、上手に焦がすということです。焦げというと失敗、焼き過ぎというマイナスのイメージがあるかもしれませんが、上手に活用すれば野菜料理をおいしくすることにつながります。
肉や魚介、乳製品を使った料理に比べると、野菜料理は旨みや味のインパクトは弱いと言わざるを得ないかもしれません。そこで、この連載で毎回確認している「野菜料理をおいしくする7要素」旨み・塩分・甘み・油分・食感・香り・刺激が重要になってきます。それらを加えることで食べた時のインパクトを強くし、野菜だけでも十分に満足感のあるおいしさにすることができます。
実はもう1つ、すべての野菜に適するわけではありませんが、野菜料理をおいしくする効果的な方法があり、それが「上手に焦がす」ということです。「
焼きなすの醍醐味」「
焼きいちじくの田楽」「
きのこのカリカリ焼き」「
焼きしいたけ」「
焼き松茸」「
ねぎの丸焼き」「
焼き大根」「
焼きねぎの南蛮漬け」「
白菜焦がし焼き」「
かぶの淡麗仕立て」「
焼きみかん」などで活用してきました。
焦がすことで香ばしさが加わり、味に奥行きが出ます。以前、「
筑前煮」でメイラード反応についてお話ししたように、こんがり焼いたトーストや餅、香ばしい煎餅、ご飯のおこげ、焦げ目のついた焼き魚などがおいしいのもその反応によるものです。
15年以上前にプロの料理人の間で、厳密な温度管理などの科学に基づいた真空低温調理技術が導入され、それまで成し得なかった加熱調理が可能となり大流行しました。今では家庭用の真空低温調理器も登場し、使用されていますね。
一時期、ローストビーフがはやったのもこの技術のおかげといってもよいでしょう。調理器の表示通りに温度と加熱時間を入力すれば誰にでも作れますから。
現在、一部のプロの中ではこの加熱法を見直す流れもあります。熱の入れ方は絶妙に操作できますが、仕上がりの風味がクリアでなくなるという課題が残ります。ローストビーフを例にとると、焼いて加熱したわけではないので、肉の中に臭みがこもり、従来のオーブンを使ったローストビーフを知っている人には、柔らかいんだけど……となってしまいます。焦げ目も含めて、焼くことで生まれるおいしさはやはり格別なのです。
新玉ねぎに、上手に濃い焦げ目をつけて焼いてみてください。一般的な玉ねぎよりみずみずしくて甘い新玉ねぎが、焦げの風味で大化けし、お代わり必至のおいしさです。“濃い焦げに恋い焦がれる”(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう
ちょっとしたコツ
・「新玉ねぎのステーキ」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・新玉ねぎは水分が多いので、焼いている途中で水分が出てくる。強めの火加減で水気をとばすように焼く。
・少量のグラニュー糖をかけることで焦げ目がつきやすくなり、ほのかに甘みが増す。
・「新玉ねぎの焦がし焼き」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・オリーブ油をかけて焼くことで、きれいな焦げ目がつくと同時に旨みも増す。
「新玉ねぎのステーキ」(右)
【材料(2人分)】・新玉ねぎ 2個
・太白油 適量
・塩 少々
・こしょう 少々
・グラニュー糖 1g(好みで増減)
・濃口醤油 小さじ1弱
・一味唐辛子 少々
【作り方】1.新玉ねぎは皮をむき、1.5cm厚さの輪切りにする。焼く際にバラバラにならないように楊枝を中心に向けて1本刺して固定する。
2.両面に塩・こしょうをして、グラニュー糖を薄くふりかける。
3.フライパンを火にかけて太白油をひき、新玉ねぎを入れて強火〜中火で焼く。途中で返して両面に焦げ目がついたら、濃口醤油を回しかけてからませ、火からおろす。器に盛って一味唐辛子をかけて供する。
「新玉ねぎの焦がし焼」(左)
【材料(2人分)】・新玉ねぎ 1と1/2個
・塩 少々
・オリーブ油 少々
・大根おろし(水気を絞る) 適量
・ポン酢(市販品) 適量
【作り方】1.新玉ねぎ1個は皮をむき、根元部分を残して縦に6等分する。根元部分を除くと焼いている途中でバラバラになってしまうので注意。
2.新玉ねぎの断面に塩をふり、オリーブ油を少量かける。
3.予熱したグリラーに2を入れて強火〜中火で焼く。途中で返して両面に焦げ目がつくくらいまで焼く。
4.残りの新玉ねぎ1/2個をすりおろして、水分を絞ってボウルに入れ、同量の大根おろしを加える。ポン酢を好みの量加えてよく混ぜる。
5.焼けた新玉ねぎを器に盛り、4を添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。