プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 山菜・春菜の天ぷら
六雁は野菜料理に力を入れており、春に限らず一年中、日本中から野菜や山菜が届きます。以前は輸送に時間がかかり、その土地で食べるものに比べて明らかに味が落ちましたが、現在は採りたてが翌日には届くようになりました。
食べられる植物の中で、人間が栽培するものを野菜と呼び、山野に自生するものを山菜と呼びます。
山菜は海辺から里山や高山、街中と様々な環境で自生し、全国で食べられているものは300種類を超えるといわれます。近年は人の手で栽培される山菜も増えましたが、元々、野生植物である山菜は収穫量が少なく、出回る時期も限られているので、季節を味わう食材といえるでしょう。
右手前から時計回りに、ふきのとう、つくし、たらの芽、うるい、浜防風、こごみ。はるか5000年以上前から人々に食されていたようで、青森市の縄文遺跡、三内丸山遺跡(さんないまるやまいせき)からは、たらの木の種が発見されました。縄文人は土器を使って山菜のあく抜きや塩漬けまでしていたようです。
山菜料理にはパターンがあり、あくや苦みが少ないものから順に、汁の具材や色飯、ひたしや和えもの・酢のもの、煮ものや炒めものにするのがよいようです。中でも天ぷらはほぼすべての山菜に適します。これまで何度もお話ししてきましたが、油分は苦みを感じにくくすると同時に、人間がやみつきになりやすくおいしいと感じる成分のひとつだからです。
今日は山菜と春菜を天ぷらにします。サクサクと香ばしい揚げたての衣の食感とともに、ほろ苦い春の香りが口いっぱいに広がります。今晩は山菜の天ぷら、食べてんぷら。私のダジャレはキレが悪いですが、天ぷらは油のキレをよく。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「山菜・春菜の天ぷら」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・たけのこは既に火が通っているので、汁気をよく取り除いて表面をカリッと揚げる。
・うどの穂先部分は柔らかいので皮はむかなくてよい。水分が多いため、断面には薄力粉を多めにつける。
・早く揚がるのは浜防風、こごみ、たらの芽、うどの順番。揚げ時間に注意。
「山菜・春菜の天ぷら」
【材料(2人分)】・たらの芽 4個
・うどの穂先部分(茎部分でもよい)1個
・こごみ 4本
・浜防風 4本
・たけのこ(炊いたもの)2切れ 「
たけのこの煮もの」参照
・天ぷら衣
薄力粉100g、冷水100cc、卵黄1個
・薄力粉 適量
・揚げ油 適量
・塩(好みで) 適量
・天出汁(好みで) 適量
出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合
【作り方】1.たらの芽の下処理をする。たらの芽は、はかまの部分を包丁で取り除き、火が通りやすいように切り口のほうから6mmほどの深さで十字に切り込みを入れる。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
2. こごみは根元の堅い部分を切って、6㎝長さにする。浜防風は5cm長さに切る。
3.うどは穂先の部分を切り離し、縦半分にする。
4.たけのこは煮汁から上げ、汁気をクッキングペーパーで拭いて取り除く。
5.天ぷら衣を作る。ボウルに入れた冷水に卵黄を加え、泡立て器でときほぐす。そこに薄力粉を加えて粘りが出ないようにさっくりと混ぜる。ベジタリアンは卵を用いなくてもよい。
6.たらの芽、こごみ、浜防風、たけのこに薄力粉を薄くまぶす。うどの断面には薄力粉を多めにつける。天ぷら衣をつけ、170℃に熱した揚げ油に入れる。途中で返して、出る泡が少なくなりカリッと揚がったら油から上げ、クッキングペーパーにのせて油をきる。好みで塩や温めた天出汁をつけて食する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗