プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 春大根の丸太ん棒(まるたんぼう)
冬の間、大根を使った料理をかなりの数、紹介してきました。大根は冬が旬というイメージが強いですが、一年中店頭に並んでいる野菜のひとつですね。地域によって栽培時期を替えたり、季節に合わせた品種を栽培しているからです。春大根・夏大根・秋冬大根の3つがあり、冬大根は寒さに耐えるために甘みが増しますが、春から夏にかけてのものは辛みが強くなります。
3月頃から出回る春大根は初冬に種をまいて春に収穫され、冬大根に比べ形が先細りになったものが多いようです。柔らかく水分が多いのですが、辛みがあって煮ものにしても冬大根ほどおいしくありません。サラダや漬けもの、大根おろしなどの生食向きです。夏大根は春に種をまいて夏に収穫し、春大根よりもさらに辛みがあり、堅くこりこりとした食感になります。生食や炒めものに向いています。
4月は春大根が旬ですが、生食ばかりでは飽きるし、体が冷えます。そんなときは是非、今日お教えする春大根の丸太ん棒をお試しください。以前、紹介した「
長いもの丸太ん棒」と同じで下茹でもいりませんし、簡単にできます。表面はあつあつで中は半生、大根の辛みも感じません。春大根にうってつけの料理です。
野趣たっぷりの料理なので丸太ん棒と名づけました。「丸太ん棒」とは木の皮をはいだままの材木のことで、私が目指している『雨ニモマケズ』(宮沢賢治)の「デクノボー」ではありません。「ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ」。野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「春大根の丸太ん棒」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・味が表面にしかつかないため、少し強めの甘辛味にする。甘辛味を七味唐辛子の辛みで引き締める。
・揚げることで味にボリュームが出て、ごまが風味と食感を加える。
・中は半生に仕上げているため、時間をおくと水分が出る。あつあつのできたてを食べる。
「春大根の丸太ん棒」
【材料(3〜4人分)】・春大根 15cm
・春大根の葉と茎 各適量
・揚げ油 適量
・出汁(かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい) 50cc
・濃口醤油 大さじ2
・砂糖 大さじ2
・みりん 大さじ2
・七味唐辛子 少々
・いり白ごま(市販品をいり直す) 少々
【作り方】1.春大根は葉茎を切り、厚めに皮をむいて縦に十字に4等分する。葉と茎は茹でて水に放し、水分を絞り5mm幅に刻む。
2.フライパンに揚げ油を入れ、180℃に熱して大根を入れる。表面全体が均一に揚がるように大根を箸で転がしながら揚げる。
3.表面がきれいな茶色になったら油から上げる。中まで火が通っていなくてもかまわない。
4.鍋に出汁と調味料を入れて火にかけ、沸いたら大根を加える。全体に煮汁がからむように鍋を前後に揺すりながら、弱火で煮汁を煮つめていく。煮汁が大さじ3杯くらいまで煮つまったら火からおろす。「
長いもの丸太ん棒」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」も参照。
5.大根を鍋から出して七味唐辛子をふり、大ぶりに切って器に盛る。大根の葉と茎はボウルに入れて鍋に残った煮汁少量をからめる。大根に添え、いりごまをかけて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗