ふきのひたし、梅煮、伽羅蕗(きゃらぶき)
風味豊かで食感もよく、ほろ苦さが特徴のふきが今、旬の盛りです。「
ふきの筏(いかだ)揚げ、ふきのとう味噌かけ」でお約束しましたように、たくさんあるふき料理の中から今日は3品ご紹介します。味も色もすがすがしいふきを、雲華焼(うんげやき。焼成時に焦げやむらが出るように焼いた陶器。その名は器の表面のむらが、雲がかかったように見えることに由来する)の土器(かわらけ)に神々しく盛りつけました。
ふきにはいくつか種類がありますが、現在、最も多く出回っているのは「愛知早生(あいちわせ)」という品種で、みずみずしくて柔らかいのが特徴です。江戸時代末期に愛知県知多郡加木屋村(現・東海市)で作られていたふきの品質がよいことから全国に広がりました。雌株しかなく、種子で繁殖できないので現在まで株分けで栽培されています。
他にも山ぶき(山野に自生するふき。別名・水ふき)や北海道・秋田県で栽培される葉柄の長さが1.3~2m、直径が3~6cmにもなる大きなラワンぶきや秋田ふきがあります。
ふきは葉付きのものであれば、葉がみずみずしく鮮やかな緑色のものが新鮮です。切り口を見て茶色く干からびているものは鮮度が落ちています。葉柄がきれいな淡緑色をしていて張りがあり、手に持ったときに曲がらずぴんとしているものを選びましょう。
ふきはたけのこと同じで、収穫後、時間の経過ともにあくが強くなります。買い求めたらすぐに茹でて下処理しましょう。保存する場合は、葉と葉柄を切り分けると、葉柄部分が葉に水分と栄養分を取られるのを防げます。葉は、茹でて刻み水にさらして、佃煮や和えものにすると風味豊かでおいしくいただけます。
今回お教えする「伽羅蕗(きゃらぶき)」は、プロの料理人や佃煮屋さんは先述の山ぶきで作りますが、一般的なふきの細くて使いにくい部分や、根元の色の悪い部分を裂いて用いてもおいしくできます。蕗(ふき)を伽羅(きゃら)色(濃い茶色)に炊くのでそう呼びますが、伽羅という言葉はこの伽羅蕗以外、私たちの日常からほとんど消えてしまいました。
伽羅とは、ベトナムを主とした東南アジアに生育するジンチョウゲ科の沈香(じんこう)から採取した香木「沈香」の中で最優品のものを指し、その価値は金に等しいとされてきました。足利義政・織田信長・明治天皇など時の権力者が、その香木の一部を切り取ったことで知られる正倉院宝物の蘭奢待(らんじゃたい)が有名です。
江戸時代になると伽羅という言葉が「いいもの、すてきなもの」の形容として使われ、「伽羅女(きゃらめ)」は美しい女性を、「伽羅の春」はめでたい新春を意味し、江戸の遊里では金銭の隠語としても使われました。
“伽羅”という言葉は現在あまり使われなくなりましたが、自分らしさ、個性という意味での“キャラ”についてはうるさく言われますね(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「ふきのひたし」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・ふきは筋が残らないように両端から皮と筋を除く。
・下茹でがたりないとふきが変色するので注意。
・ふきのひたしには、生姜のせん切りの刺激と風味がよく合う。
・「ふきの梅煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・ふきは金串や竹串で裂くと簡単に麺状になる。
・梅干しをほぐして加え、酸味と風味を移した出汁でふきを炊く。
・沸かした煮汁にふきを加えてさっと炊き、鍋ごと冷やして食感を残す。
・「伽羅蕗」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・伽羅蕗は煮汁がなくなるまで煮つめて仕上げるが、そのまま1時間ほどおくと汁気が少し出てくる。再度、煮つめると日持ちする。
・伽羅のような濃い茶色に仕上げたい場合は、鉄製のフライパンやすき焼き鍋を使って炊くとよい。
「ふきのひたし」(右上)
【材料(2人分)】・ふき(茹でた状態) 50g
・漬け出汁 約200cc
出汁180cc、塩0.3g、薄口醤油12cc、日本酒5cc
・生姜(なるべく細いせん切りにする) 適量
【作り方】1.ふきは20cmほどの長さに切る。塩(分量外)もみして、寝かせて入る大きめの鍋で、太さによるが3~4分茹で、冷水に放し水をきる。上下から皮と筋を取る。「
ふきの煮もの」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」を参照。
2.ふきを3.5cm長さ×3mm厚さの斜め切りにして、漬け出汁170ccに20分以上つけて、味を含ませると同時に苦みを少し抜く。
3.ふきの汁気をきって器に盛り、残りの新しい漬け出汁30ccに薄口醤油(分量外)を数滴加えたものをかける。生姜のせん切りを添えて供する。
「ふきの梅煮」(左)
【材料(2人分)】・ふき(茹でたもの) 60g
・出汁 200cc
・日本酒 大さじ1
・梅干し(中) 2個
・薄口醤油 小さじ1/2
・梅肉 少々
【作り方】1.ふきは20cmほどの長さに切り、「ふきのひたし」の1と同じように茹でて皮と筋を取る。
2.まな板の上にふきを置いて、金串や千枚通し(竹串でもよい)で繊維に沿って6本ほどに裂く。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
3.鍋に出汁を注ぎ、指でつまんで少しつぶした梅干しと日本酒を入れて火にかける。沸いたらごく弱火にして5分程炊き、梅干しの酸味と風味を出汁に溶け出させる。クッキングペーパーでこして鍋に戻し、調味料を加えて沸いたらふきを入れる。1分炊いたら火からおろし、鍋ごと氷水で冷やし20分以上味を含ませる。
4.汁気をきって器に盛り、梅肉を少量添えて供する。
「伽羅蕗」(右下)
【材料(作りやすい分量)】・ふき(茹でたもの) 400g
・出汁 100cc
・日本酒 180cc
・濃口醤油 35cc
・たまり醤油 20cc
・砂糖 20g
・赤唐辛子(種を抜く) 1本
・けしの実 少々
【作り方】1.ふきは「ふきのひたし」の1と同じように下処理する。真ん中の色のよい使いやすい部分は他の料理に用い、伽羅蕗には先の細い部分や根元の色の悪い部分を用いるとよい。
2.先の細い部分は3〜3.5cm長さに切る。根元の太い部分は縦に4つに割いて3〜3.5cm長さに切る。
3.鉄製のフライパン(すき焼き鍋でもよい)に、すべての調味料と赤唐辛子を入れて火にかける。調味料が混ざったら水気をきったふきを加える。沸いたら中火にして時々混ぜながら煮つめていく。途中、鍋肌についた煮汁が焦げないように、固く絞った布巾で拭き取る。煮汁が少なくなってきたら弱火にして、煮汁が完全になくなるまで煮つめる。
4.煮汁がなくなったら火からおろして、そのままおく。1時間ほどたつと水分がにじみ出てくるので、再度火にかけて、煮つめて仕上げる。器に盛り、けしの実をかけて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。