新もずくの酢のもの、雑炊
もずくは1年中店頭に並んでいますが、これからごく短期間、生の新もずくが出てきます。「初物」を食べると寿命がのびると言われ、「初物七十五日」という俗信もあります。
もずくの旬は4月〜6月で、夏になると枯れてしまいます。ほかの時期のものは冷凍か塩蔵、乾燥になります。暖かい地方の浅い海に生息し、細長く糸状で枝分かれがあるのが特徴です。藻(も。海藻)の一種であるホンダワラなどに付着し、「藻に付く」という意味で「藻付く=もずく」と呼ばれるようになったといわれます。
出回っているものの約9割が沖縄で養殖されている沖縄もずくという種類で、「太もずく」とも呼ばれています。太さがあってぬめりが少なく、しゃきしゃきとした食感です。
ほかにも「糸もずく(細もずく)」という種類が、能登半島や山陰地方に生息しています。細くてぬめりが強く、つるんとした食感が特徴で、希少な生の天然物が出回るのは極めて短かい間です。生もずくは海中に自生している間は褐色ですが、熱湯に通すと緑色になります。
こうして見ると、昆布やわかめと同じ褐藻類だからか、もずくは以前に紹介した「生めかぶ」(「
めかぶとろろ、めかぶ汁」参照)に特徴がそっくりですね。生活習慣病の予防・改善や免疫力の向上、毛母細胞を活性化させるフコイダンや、余分なコレストロールや塩分を排除する働きがあるアルギン酸を含むのも同じです。
もずくもめかぶも、酢のものにするとおいしいですが、もずくは雑炊にしても絶品です。あつあつのさらっとした雑炊に仕上げて、生姜のせん切りをたっぷり添えましょう。
もずく雑炊には、写真の「狂言袴(きょうげんばかま)」と呼ばれる少し大ぶりな筒向付(つつむこうづけ)がぴったりですが、「
せりと切り干しのはりはり漬け」でお話ししたように、この筒向付は深さがあるので盛りつけた料理は写真に撮りにくく、泣く泣くあきらめました。読者の皆様には狂言袴に盛られているイメージをご想像いただければと思います。
狂言袴とはもともと、狂言の装束のひとつで、太郎冠者や百姓、商人など一般庶民の役に用いる麻地の半袴です。高麗焼(こうらいやき)の文様のひとつに、狂言袴の型染めの柄に似ているものがあり、それにちなんで名づけられました。凛とした佇まいの中にどこか庶民的な趣もあり、両手で包むように持った際の温かみがなんとも言えません。
此度(こたび)はもずくの酢のものと雑炊でござる。狂言調の悪ノリは要らないって? 「ごゆるされませ(許してください)」「やるまいぞ、やるまいぞ」(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「新もずくの酢のもの」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘味み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・新もずくはざるに入れて洗う。特に細もずくはそのまま洗うと水と一緒に流れてしまう。砂や貝殻などを含んでいる場合があるので、ていねいに洗って下処理する。
・土佐酢に漬けて、優しい味の酢のものにする。市販品のもずくの酢のものは日持ちも考慮し、甘くて味が濃いものが多い。
・土佐酢に二度漬けする。新もずくは水気をざるできってもまだ水分が含まれているので、一度目の酢漬けで水分を除き、2度目で味を含ませる。
「新もずく雑炊」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・雑炊は具材をシンプルに、多めの出汁でさっと煮る。飯が出汁を吸って膨らまないさらっとした状態のうちに食べる。
「新もずくの酢のもの」(右)
【材料(作りやすい分量)】・新生もずく(塩蔵、冷凍でもよい) 適量
・土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
・浜防風 適量
・甘酢 適量
作りやすい分量:昆布出汁(水1L 昆布10g)450cc、酢300cc、砂糖100g
・おろしわさび(市販のチューブ入りでもよい。おろし生姜でもよい。) 少々
【作り方】1.新もずくは、ざるに入れて洗う。大きめのボウル2つに水を用意し、1つに新もずくを入れたざるをつける。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。蛇口から水を注ぎながら、新もずくをすすぐように混ぜて洗う。空のざるを入れたもう1つのボウルに、すすいだもずくを両手ですくって移す。最初のボウルやざるの底に砂が沈殿している可能性があるので、新もずくだけを手ですくって移すこと。再度、同じように洗ったら別のざるに上げて水気をきる。塩蔵もずくの場合は塩抜きして用いる。
2.新もずくをまな板の上に少量ずつ広げる。砂や貝殻などがないか確認して、あれば除き、食べやすい長さに切る。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
3.鍋にたっぷりの湯を沸かす。2の新もずくをざるに入れる。ざるごと湯につけて箸でかき混ぜながら茹でる。緑色になったらざるごと冷水につける。
4.冷めたら冷水から上げて水気をよくきり、保存容器に入れる。土佐酢を注いでよく混ぜて冷蔵庫に1時間ほど入れておく。土佐酢の中に新もずくに含まれていた水分が出るので、ざるにあけて酢を切り、新しい土佐酢に漬け替え30分以上おく。
5.浜防風はさっと茹でて冷水に放し、冷めたら水気をきる。葉がついた部分は3cm、茎は2.5cm長さに切って甘酢に20分以上漬ける。葉がついた部分は葉が変色しないように茎の部分のみを甘酢に漬ける。口径の小さいコップなどに1cmほど甘酢を注ぎ、葉の部分をふちに立てかけ茎部分のみを漬ける。
6.新もずくを器に盛り、浜防風の葉と茎をのせる。わさびを添えて供する。
「新もずく雑炊」(左)
【材料(2人分)】・新生もずく(塩蔵、冷凍でもよい) 50g
・ご飯 100g
・雑炊の出汁
出汁400cc、日本酒大さじ1、塩1g弱、薄口醤油小さじ2
・角餅(半分に切る) 1個
・生姜のせん切り 適量
【作り方】1.新もずくは「新もずくの酢のもの」の1〜2と同じように洗って、食べやすい長さに切る。
2.雑炊の出汁を作る。鍋に出汁を入れ、中火にかけ調味料を加える。
3.2と同時進行で飯を用意する。あらかじめ炊いてある飯はざるに入れて、水をためたボウルに入れ、粘りをさっと洗い流して水気をきる。
4.鍋にたっぷりの湯を沸かす。1の新もずくをざるに入れる。ざるごと湯につけて箸でかき混ぜながら茹でる。緑色になったら湯から引き上げ、冷水にはつけない。餅はオーブントースターでこんがり焼く。
5.雑炊の出汁が沸いたら、3の飯と茹でたての新もずくを加え、再度沸いたら椀に盛る。餅を加えて生姜のせん切りを添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。