新じゃがいもとセロリの黄身酢がけ、素揚げ
「
新じゃがいもの揚げ煮」を紹介した頃は、まだ小さかった新じゃがいもも、いつの間にか大きくなってきました。子どもの成長を語るような口調になってしまいましたね。新じゃがいもはみずみずしくて柔らかく、透き通るように皮が薄くてどこか赤ちゃんに通じるものがあります。
もう30年近く前になりますが、赤ん坊だった我が子を抱いた時のあの乳臭いにおいが懐かしくなることがあります。新鮮さを愛でる新じゃがいもも、若々しい香りを大切にして料理するのがポイントです。
普通のじゃがいもは、貯蔵熟成させて糖度を上げているので甘く、加熱するとホクホクした食感になります。単純に甘みだけを比べれば、新じゃがいもに勝ち目はないかもしれません。
最近では果物だけでなく、じゃがいも、さつまいも、にんじん、キャベツなどの野菜も糖度の高いものが人気です。市販の総菜や弁当、冷凍食品なども、甘い味つけにする傾向があります。「
野彩せんべい」でもお話ししましたが、人は生命の維持のために必要な要素である甘み、塩分、旨み、油脂に対して本能的においしさを感じ、やみつきになりやすい傾向があるからでしょう。
「甘いはうまい」ともいわれ、甘いと旨いは同義語・類義語に近いものとして使われ、昔から「甘い」という字には「うまい」という読みもありました。かつて砂糖は外国からの輸入品で高価かつ貴重品だったこともあり、甘いものは旨いものでもあったのでしょう。
一方で、毒物である可能性を示唆するシグナルであり、本能的な反応では嫌われる苦みが、年齢を重ね、くり返し経験することによって、大人の味としておいしく感じられるようになることもあります(「
くわいの煮もの、揚げ煮」参照)。
さらには先述した赤ちゃんのにおいではありませんが、あるにおいを嗅いだとき、急に昔の記憶が蘇ることも(「
焼きとうもろこしアイス」参照)。本能的に感じる旨いだけでなく、食経験、人生経験を重ねるにつれ、旨いという感覚も変化していきます。
新じゃがいもは大地の香りがするような気がします。かつて人類が大自然と共に生きていた頃の遠い記憶が影響しているのでしょうか。今日は、そんな新じゃがいもの香りを生かして、料理します。
1品目はさっと茹でてこくのある黄身酢をかけます。2品目は香りを封じ込めてカリッと2度揚げに。同様の調理法を「
じゃがいもの梨もどき」と「
いも天の吹き寄せ」でお教えしましたが、お試しいただくと季節による味と風味の違いに驚かれるでしょう。甲乙つけ難い旨さです。
見る人をうっとりさせる「甘いマスク」、聞いていると心地よくなる「甘い声」にはまったく縁がない私ですが、「脇が甘い」、「詰めが甘い」、「読みが甘い」とはよく言われます。同じ甘いでもいろいろありますね(笑)。今日は心地よくなる「甘い香り」でうまい野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「新じゃがいもとセロリの黄身酢がけ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・新じゃがいもの食感をよくするために、茹で湯に酢を加える。茹で湯を酸性にするとペクチンの分解が抑制され、じゃがいもがシャキシャキになる。
・卵黄は68〜70℃で粘りのある状態になり、それ以上になると固まりだす。湯煎の温度を80℃くらいにするとよい粘りになる。
・一般的な黄身酢は甘みや酸味がかなり強いため、素材の味や香りが感じにくくなる。黄身酢は穏やかな味にして、じゃがいもを土佐酢で下洗いすると、おいしい酢のものになる。
・「新じゃがいもの素揚げ」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・新じゃがいもは皮ごと揚げて香りを閉じ込める。皮は薄いので口に残りにくい。
・水分を多く含むので早く火が通る。
・2度揚げして表面をカリッと仕上げる。
・塩は熱いうちにふると味がしっかり定着する。
「新じゃがいもとセロリの黄身酢がけ」(右)
【材料(2〜3人分)】・新じゃがいも(中)2個
・酢 適量
・セロリ 1/2本
・土佐酢 適量
出汁4:淡口醤油1:みりん1:酢1の割合
・黄身酢 適量
作りやすい分量:土佐酢30cc、砂糖小さじ1/2 、酢10cc、薄口醤油小さじ1弱、卵黄(ガーゼなどでこしておく)3個 「
金時草の黄身酢かけ」参照
・木の芽 適量
【作り方】1.新じゃがいもは皮をむいて縦3mm×横3mm×5cm長さに切る。刃幅が3mmほどの櫛刃をつけたスライサーを使ってもよい。水に放してでんぷんを流す。
2.セロリは筋が堅い場合は筋を除く。縦3mm×横3mm×5cm長さに切る。さっと茹でてざるに上げ、水に放さず土佐酢につける。
3.木の芽は枝部分を外して葉のみにする。
4.鍋にたっぷりの水を入れて沸かす。酢(湯1Lに対して酢50ccくらい)を加えて、鍋よりひと回り小さいざるに入れた新じゃがいもをざるごと沸かした湯に入れ、35〜40秒茹でたら、水につけて冷やす。
5.じゃがいもの水気をよくきり、ボウルに入れて土佐酢をまぶして洗う。ざるに上げて酢をきったらボウルに戻して、土佐酢をきったセロリを加えて混ぜる。方向をそろえて束にして器に盛る。黄身酢をかけて木の芽を散らして供する。
「新じゃがいもの素揚げ」(左)
【材料(2〜3人分)】・新じゃがいも(中) 2個
・揚げ油 適量
・塩
【作り方】1.フライパンに揚げ油を入れて160℃に熱する。洗った新じゃがいもを皮付きのまま入れて10〜12分ほど揚げる。竹串を刺して通ったら油から上げる。
2.新じゃがいもをクッキングペーパーで包んで5分蒸らした後、クッキングペーパーを外し、170℃に上げた油に入れて1分30秒〜2分揚げる。
3.表面がカリッと揚がったら油から上げて2〜4つに切り、塩をふりかけ器に盛り、あつあつを供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。