きぬさやとせりの根の天ぷら
今日はあまり知られていないけれど、大変おいしい野菜の天ぷらを紹介します。春の天ぷらといえば車海老や穴子を筆頭に、きす、小柱、白魚、そして「
山菜・春菜の天ぷら」でもお教えした山菜などがあります。どれも美味ですが、少々高価な素材が多いですね。
心配ご無用、天ぷらにするとおいしい、知る人ぞ知る春野菜が身近にあります。きぬさやとせりの根です。きぬさやは「
きぬさや3種」でも取り上げました。天ぷら専門店でも、ししとうや甘長唐辛子を揚げることはあっても、きぬさやを使うことはあまりないでしょう。きぬさやは天ぷらにすると食感が大変よく、風味と甘みが強く感じられ、目から鱗が落ちます。
きぬさやはえんどうの一種です。えんどうは大別すると若いさやを食用とする「さやえんどう」、未熟な豆を食用する「実えんどう」、完熟した豆を乾燥させて利用する「えんどう」があります。さやえんどうの代表がきぬさやで、他にもオランダさやえんどう(オランダ豆)やスナップえんどう、砂糖さやなどがあります。どれも春から初夏が旬です。
きぬさやは張りがあってみずみずしく、きれいな黄緑色をしているものを選びます。先端に白くピンとしたひげがついているものが新鮮です。中の豆のふくらみが小さいものがよく、大きいものは育ち過ぎで堅く、味が落ちます。
せりの根は「
せり飯、せりのおひたし」ではきんぴらにしましたが、茎と違って細くしたごぼうのような食感です。中でも秋田県湯沢市三関(みつせき)地区名産の三関せりは、根が白くて長いことで有名です。
天ぷらはポルトガル人が長崎に伝えたとされる「長崎天ぷら」を起源とし、江戸の庶民の味として徐々に広まり、そば、寿司とともに「江戸の三味」の一つとなり今に至ります。かつて江戸前の天ぷらは魚介が中心で野菜は少なく、野菜の天ぷらは総菜屋が売るか、家庭で作るものとされる風潮がありました。
近年は天ぷらの名店ほど野菜を多く使うようになり、うれしい限りです。揚げ油を多めに用意し、たねを一気に入れずに少しずつ揚げましょう。この連載でコツを覚えて、揚げたてを食べれば、家庭の天ぷらも専門店に負けません。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
「きぬさやの天ぷら」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・きぬさやは揚げ過ぎると食感が失われる。
・「せりの根の天ぷら」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・根の部分がバラバラにならないように、茎を1cmほどつけて切る。
・根の奥に泥が入り込んでいる場合がある。歯ブラシや楊枝を使って泥を洗い落とす。
・天ぷらの衣をつけて揚げ油の中に入れたら、箸でつかんで小刻みに振って余分な衣を散らす。天ぷらと素揚げの間の状態でカリッと揚げる。
「きぬさやの天ぷら」(左)
【材料(2人分)】・きぬさや 28枚
・青じそ 4枚
・天ぷら衣
薄力粉100g、冷水100cc、卵黄1個
・薄力粉 適量
・揚げ油 適量
・塩(好みで) 適量
・美味出汁(好みで) 適量
出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合
【作り方】1.きぬさやの筋を取る。柔らかいものは内側の筋しか取れないが、念のために両側の筋を取る。
2.きぬさやを少しずつずらして3枚重ね、楊枝を2か所に斜めに刺す。両端を切ってそろえる。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。同じものを合計4組作る。
3.きぬさやを4枚重ねて、両端を切ってそろえる。重ねたきぬさやがずれないように、青じそで巻いて楊枝で留める。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。同じものを合計4組作る。
4.天ぷら衣を作る。ボウルに冷水を入れて卵黄を加え、泡立て器でときほぐす。そこに薄力粉を加え、粘りが出ないようにさっくりと混ぜる。ベジタリアンは卵を用いなくてもよい。
5.2と3のきぬさやそれぞれに薄力粉を薄くまぶして天ぷら衣をつけ、170℃に熱した揚げ油で揚げる。2のきぬさやは1分強、3は1分30秒ほど、途中で返しながら揚げる。油から上げてクッキングペーパーにのせて油をきる。すべての楊枝を抜き、青じそを巻いたものは半分に切り器に盛る。好みで塩または美味出汁をつけて食する。
「せりの根の天ぷら」(右)
【材料(2人分)】・せりの根部分 1束分
・天ぷら衣
薄力粉100g、冷水100cc、卵黄1個
・薄力粉 適量
・揚げ油 適量
・塩(好みで) 適量
・美味出汁(好みで) 適量
出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合
【作り方】1.せりは根の部分がバラバラにならないように、茎を1cmほどつけて切る。根の奥に泥が入り込んでいる場合があるので、歯ブラシや楊枝を使って泥を洗い落とし水気をよく切り、さらにクッキングペーパーで拭く。
2.薄力粉をごく薄くまぶして天ぷら衣(「きぬさやの天ぷら」の4と同じ)をつけ、170℃の揚げ油に入れる。せりの根を箸でつかんで小刻みに振って余分な衣を散らした後、形を丸く整える。途中で返して、出る泡が少なくなりカリッと揚がったら油から上げ、クッキングペーパーにのせて油をきる。器に盛って、好みで塩または美味出汁をつけて食する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。