時代を物語るダイヤモンド。長さ20センチ、大きな胸飾りのブローチが生まれた理由

アルビオンアート ── 時代を物語るダイヤモンド

スペイン王妃マリア･クリスティナ旧蔵 ダイヤモンドのコルサージュ･オーナメント
長さ20センチ、幅12センチという大きな胸飾りのブローチは、王妃の着用画（下）からもその堂々たる存在感が感じられる。ハプスブルク家とブルボン家の君主たちの壮麗な趣味の融合であり、並外れて稀少な歴史的作品。（1879年頃、ダイヤモンド、シルバー、ゴールド）／アルビオンアート・コレクション


監修・文／山口 遼（宝石史研究家）

世紀末から20世紀にかけて作られたダイヤモンドだけの大柄なジュエリーを2つ。西欧人は空間恐怖症であると私は思う。

上写真の長さ20センチ、幅12センチの巨大なブローチは、普通はコサージュブローチと呼ばれるもので、19世紀の女性の服装が生み出したジュエリーである。

その頃、女性の正装はデコルテを広く開け、胴をコルセットで絞り上げ、スカートを長く伸ばして足を見せないというものであった。



結果として、胸から胴にかけて、大きな倒立三角形の空間が生まれる。日本人ならば気にしないが、空間恐怖症の彼らからすると何もない空間というのは耐えられない。

そこで生まれたのが、胴にあしらう巨大なブローチなのだ。あまりに大きいため、普通は上下に自在に動くように分かれている。スペイン王家伝来のもので、女性の正装がそうしたものであった頃の名残の名作といえよう。



エドワーディアン モンソン男爵夫人旧蔵 ダイヤモンドのティアラ／ネックレス
アメリカの陸軍大将ロイ･ストーンの娘、第9代レディ･モンソン旧蔵のティアラ兼ネックレス。フランス宮廷の優美さを想起させる繊細なガーランドスタイルは、ベル･エポックの先導的な女性たちに支持された。（1903年頃、ダイヤモンド、シルバー、ゴールド）／個人蔵

花綱を基本とするガーランドと呼ばれるデザインを用いたネックレスは、地金は金と銀を併用したもの。本来はたれ下がり部分に裏側から金属棒を差し込んだティアラとして作られた。

20世紀が始まる頃、アメリカの大富豪の娘に莫大な持参金をつけ、英国の貴族と結婚させる「ダラープリンセス」というものが流行った。これはそうした貴族になった女性のために作られたジュエリーの一つ。

ティアラだけではなくネックレスとしても使えるようにと、大富豪らしくない節約かと思いがちだが、作るのは実に大変な技術を要する。宝石商が腕の見せ所として作った、時代を伝える作品と思える。