プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 根いもと果物のわさび海苔和え
今日は根いもに果物を合わせた、おいしい酒の肴を紹介します。酒の肴とは酒に合わせる料理全般のことで、「酒」と「菜」(おかずの意味)を合わせた「酒菜(さかな)」を語源とします。その後、「酒菜」に「肴」の字があてられるようになり、現在に至ります。一般的に使われる「酒の肴」という言葉は意味が重複していることになります。
塩辛いものが多い酒の肴と人体の関係ついては、既に「
ふきの筏(いかだ)揚げ、ふきのとう味噌かけ」でお話ししましたが、ウィスキーやブランデーにはチョコレートなどの甘いものもなぜか合います。しょっぱいものの正反対なのに不思議ですね。実はこれにも生理的なものが影響しているようです。
ウィスキーやブランデーなどは蒸留によってナトリウムやカリウムが除かれ、その分、アルコール度数が高くなっています。高濃度のアルコールを摂取すると体内が熱くなり、それを受けて脳が反応します。体が熱くなるほどのエネルギーが体内に既に十分あるので、これ以上の糖は不要と錯覚し、脳は血液の中の糖を脂肪に換えるよう指示を出します。ところが、実際は糖がたりない状態なので、チョコレートなどの甘いものが欲しくなるというわけです。お酒をたくさん飲んだあと、締めにラーメンが食べたくなるのも同じ原理です。
酒の肴に甘みのある果物が意外にも合うのも、今述べたことが理由の一つです。この連載では「
甘長唐辛子とごぼう・パプリカのきんぴら」を皮切りに、15品を超える果物を合わせた料理(「
フルーツ酢味噌 刺し身こんにゃくにのせて」、「
蓮いものきゅうり緑酢和え」、「
賀茂なすのぶどう田楽」、「
柿のくわ焼き、天ぷら」、「
柿なます」、「
マスカットの辛子酢味噌和え、白和え」、「
柿と秋野菜・果物のごま酢かけ」、「
洋梨とかぶのわさび風味、洋梨と秋野菜の柚子こしょう和え」、「
海老いもとマスカットのみぞれ汁」、「
大根のみかんなます」、「
大根ときんかんの炒め煮」、いちごを使った「
ヤーコンとクレソンの酒粕白酢和え」、「
いちごの田楽、白和え」など)を紹介してきました。これらは酒の肴にはぴったりなのですが、飯のおかずにはあまり向きません。甘さと酸味と刺激の3つ、あるいは2つを組み合わせて、酒に合うように味を構成しているからです。
それでは酒に合う、酒と相性がよいとは?ということですが、次の3つのケースがあるといわれます。「味の調和」(酒と料理が互いに補い合って調和している)、「味を洗う」(酒を飲むことで食べた料理の味を洗い流し、口に残る酒の爽やかさ・旨みで次の箸が進む)、「味の変化」(酒と肴を交互に味わい、口中の味が単調にならないよう変化を与え、酒も肴も継続的においしく味わう)。
酒席に参加している人が楽しめることであれば、食べものに限らず、余興でも何でも肴になります。他人の噂話をして盛り上げることを「酒の肴にする」とも言いますね(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「根いもと果物の山葵海苔和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・淡い味で炊いた根いもを果物の甘みと酸味、海苔の風味とわさびの刺激で供する。
・焼き海苔を加えて旨みと風味をたす。海苔は3大旨み成分である「グルタミン酸」「グアニル酸」「イノシン酸」を単独で持ち、いまひとつ物足りないときに加えるとおいしくなる。
・根いもは下茹でをしてあく抜きをする。
・根芋いもを茹でる際には米のとぎ汁を用いる。えぐみや苦みなど不要の成分を吸着し取り除く働きがある。
・根いもは加熱の加減で食感が変わる。さっと茹でてしゃきしゃきした食感にする。
「根いもと果物のわさび海苔和え」
【材料(作りやすい分量)】・根いも(炊いたもの) 適量
・いちご 適量
・はっさく 適量
・キウイ 適量
・土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
・わさび(市販品のチューブ入りわさびでもよい) 適量
・焼き海苔 適量
【作り方】1.根いもは皮をむき、米の研ぎ汁で茹でて水に放してあくを抜く。長いまま炊いて味を含ませる。「
根いもの葛煮、ごま酢和え、味噌汁」を参照。
2.いちごはヘタを除き、縦に4〜6等分に切る。はっさくは皮と薄皮をむいて小さめにほぐす。キウイは皮をむいて8mm角に切る。
3.土佐酢にわさびを好みの量加えて溶かす。
4.根いもを煮汁から上げて手で煮汁を軽く絞り、乾いた布巾で包んで汁気を除く。4cm長さに切りボウルに入れる。いちご、はっさく、キウイを加えて土佐酢をまぶして洗う。ざるに上げて土佐酢を切り、ボウルに戻す。3をかけて和え、ちぎった焼き海苔を適量混ぜて器に盛り、上からもちぎった海苔を少しのせる。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗