潤う成熟世代 快楽(けらく)─最終章─ 作家・工藤美代子さんの人気シリーズ「快楽」の最終章。年齢を理由に恋愛を諦める時代は終わりつつある今、自由を求めて歩み始めた女性たちを独自の視点を通して取材。その新たな生き方を連載を通じて探ります。
前回の記事はこちら>> 第2回 彼女は恋におちいった(前編)
文/工藤美代子
この頃は自分の過去を振り返ってみる時間が多くなった。あまり外出が出来ないせいもあるのだろう。
パソコンの前で煎茶をすすりながらよく思う。わが人生は、ついに男の人にもてたことがなく終わるのかと。とにかく、ある日、素敵な男性が現れて食事に誘ってくれて、ダイヤの指輪と共にプロポーズされるなんていう、夢のような出来事は一度もなかった。女友達の中には、ニューヨークでボーイフレンドと初めて一夜を過ごした翌朝に、彼が住むマンハッタンのエルメスに一緒に行って、ケリーをプレゼントされた人がいる。その話を聞いた時は、もてる女性とはこういうものかと感心した。
私の場合は、なんといっても容姿がマイナス要因になるのはよく承知しているが、さらに言うなら、ケチな性格も男性を遠ざけた理由かもしれない。
今は亡き作家の森 瑤子さんと、ある時期親しかった。ほんの5、6年の間だ。そして彼女は病魔に侵されてこの世を去ってしまった。よく彼女とたわいない話をした。
あれは表参道から銀座に向かうタクシーの中だったと記憶している。
「ねえ森さん、パンティーのゴムって取り替えたらまたはけるんですね」と私が突拍子もないことを口にした。当時の森さんは年収2億円と噂されるほど売れまくっていた。私はといえば、せいぜいその100分の1くらいしか稼いでいなかった。お金がないので古いパンティーのゴムを取り替えてみたら、問題なく普通にはけたことに喜んでいた。
「何を言ってるのよ。あなたね、パンティーってさ、何度も洗濯したらダメなのよ。ゴムなんて取り替えるのやめてよ。パンティーは4回はいたら捨てるもの」
その言葉に私は仰天した。すごい、4回はいたらもう捨てるのか。え、でも何のため? 下着だから、絶対に外からは見えないはずだ。勿体ないじゃないか。
もちろん、今ならわかる。彼女は男性の視線にパンティーが晒される場面を想定して、4回で捨てろとアドバイスしてくれたのだ。だが、当時の私は意味がわからず、曖昧に笑ったまま次の話題に移った。