専門医に聞く 今、気をつけたい病気 第5回(02) 赤い発疹の上に水疱ができ、強く痛む帯状疱疹。部位によっては合併症が起こり、強い痛みが長引く例もあることから、抗ウイルス薬を早期に服用することが重要です。
前回の記事はこちら>> 〔解説してくださるかた〕奈良県立医科大学 皮膚科学教室 教授
浅田秀夫(あさだ・ひでお)先生
●前回の記事
50代からは特に注意!「帯状疱疹」とはどんな病気? 多くの人に発症リスクがある理由小児期に感染したウイルスが再活性化して発症
水痘・帯状疱疹ウイルスは、最初に感染して水痘を発症させた後、消えることなく、知覚神経の神経節(神経細胞が集まったところ)に潜伏します。そして、このウイルスに対する免疫が落ちたときに再び活性化します。
「ウイルスは神経節のあたりで常に免疫の様子をうかがいながら、チャンスをとらえて再活性化します。そして、長い神経の枝の中を通って皮膚まで届き、そこで水疱を作ります。水疱の中の水にはウイルスが詰まっていて、接触を通じて、子どもに感染して再び水痘を引き起こし、仲間を増やすという戦略なのです」。
神経節に潜むウイルスが体表に出て水疱を作る
(1)水痘ウイルスの潜伏水痘ウイルスに感染して水痘を発症した後、水痘ウイルスは神経節で休眠状態になっている
(2)水痘ウイルスの再活性化免疫が低下したときに水痘ウイルスが再び活性化して増殖する
(3)帯状疱疹の発症水痘ウイルスが神経を伝って皮膚に移動し、痛みを起こし、発疹や水疱を作る
●帯状疱疹の合併症や後遺症場合によっては皮膚の症状が引いた後にも神経のダメージが回復せず、痛みやまひが続いてしまう
ウイルスが再活性化したときには、皮膚の痛みが先行することが多く、数日後に神経の分布に沿って赤い発疹が出て、その発疹の上に水疱ができます。そして、痛みは次第に強くなります。
「最初は、湿布薬にかぶれた、虫に刺された、湿疹がとびひになったなどと思い込んで放置する患者さんも多いのです」。
発疹が最もあらわれやすいのは胸や背中などですが、全身どこにでも出る可能性があります(下図)。
帯状疱疹はどこにでも発症する可能性がある
帯状疱疹は胸や背中、腰の片側に発症することが多いが、全身のどこにでも出る可能性がある。発疹は帯状にならず、ポツポツと出るケースもあるので、気づいたら、すぐに皮膚科を受診する。Imahuku S,et al.J Eur Acad Dermatol Venereol,2014外陰部など思わぬ部位に出現することもあり、ほかの感染症などとの鑑別がつきにくい場合もあります。「泌尿器科や婦人科などから皮膚科に紹介されるケースもあります」。
帯状疱疹が顔面に出た場合には特に注意が必要です。目の炎症や難聴、顔のまひを引き起こすなど重大な合併症のリスクがあります。また、知覚神経だけではなく、運動神経が侵され、手足の動きが悪くなることもあります。
水疱はやがてかさぶたになり、3〜4週間ほどで皮膚症状は治ります。
鑑別しにくい例もあるので、皮膚科に行くのが安心
帯状疱疹は、一般に特徴的な臨床症状から診断がつきやすい病気です。とはいえ、先に述べたように部位によっては鑑別が難しい場合もあるため、皮膚科専門医を受診するのがおすすめです。
「特に帯状疱疹と同様に小さな水疱を生じる単純ヘルペスとの区別がつきにくいことがあります。その場合にはウイルス抗原を調べる検査キットを使って診断することができます」。
なお、帯状疱疹ワクチン(下コラム参照)は、ふだんからワクチン接種に慣れている内科や小児科でも接種できることが多いので、まずはかかりつけ医に相談してみましょう。
発症や重症化を防ぐ帯状疱疹ワクチン
50歳以上の人は、帯状疱疹ワクチンが受けられます。
帯状疱疹ワクチンは2種類あります。1つは子どもの水痘ワクチンで、2016年に50歳以上の帯状疱疹ワクチンとして適応拡大されました。
1回接種で費用は7000円から1万円程度です。ただ、ウイルスを弱毒化して使う生ワクチンであるため、重症化予防効果は期待できますが、発症予防効果は低めです。また、免疫抑制薬や抗がん剤などを使っている人は接種できません。
2020年にはサブユニットワクチンが承認されました。このワクチンはウイルスの一部分を使っていて、水痘ワクチンを接種できない免疫が下がっている患者にも使えます。また、免疫を増強させる成分も入っているため、高い発症予防効果があります。
副反応はワクチンを打った部分の発赤、発熱、頭痛などです。2回接種で費用は1回2万円程度、合計4万円程度が必要です。いずれも自己負担による任意接種で、自治体によっては補助が受けられます。