春菜(しゅんさい)寿司
春野菜をふんだんに使ったちらし寿司を紹介します。料理屋は春に寿司を出すことが多く、3月〜4月は桜寿司、5月になればちまき寿司などで技を競います。中でも一番豪華なのは、ちらし寿司でしょう。これもかの高級料亭吉兆が、岡山県の郷土料理「祭りずし」にヒントを得て、プロならではの料理に昇華させたものが広まりました。
祭りずしは「岡山ばらずし」とも呼ばれ、祭りや祝い事などハレの日の料理として作らます。瀬戸内海の新鮮な魚介と旬の農産物を盛り込んだ、日本一豪華なちらし寿司ともいわれます。
江戸時代、備前岡山藩主・池田光政(いけだ・みつまさ)が倹約令を施行し、日常から祭事、祝事まで例外なく質素を旨とする「一汁一菜」を原則としました。その制約を守りつつ、なんとかおいしいものを食べようと、寿司飯に多くの具材を入れて一菜とし、それに吸いものをつけた「一汁一菜」が誕生しました。
豪華さが目立たないように寿司桶の底に先に具材を敷き詰め、その上にかんぴょうやしいたけを混ぜた寿司飯をのせて、食べる直前にひっくり返すという工夫も考えられたそうです。
今日はちらし寿司をおいしくする寿司の素をお教えします。ごぼうと干ししいたけをミンチ状にし、油で炒めて味つけした寿司の素を加えれば、ちらし寿司が格段においしくなります。「
ごぼう餅、ごぼうアイスクリーム」でお話しした、味わいに深みを出すごぼうの効果と干ししいたけの旨みの相乗効果です。
今日は土曜日、お休みの方も多いと思います。今からぼちぼち準備すれば、明日にはプロにも負けない豪華な野菜ちらし寿司ができます。この材料どおりでなくてもよく、家にあるものでいろいろ工夫をしてもおいしく食べられるはずです。ちらし寿司を持って季節を感じる自然の中で春の行楽を満喫してはいかがでしょう。今日も明日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「春菜寿司」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・寿司の素は少量では作りにくい。冷凍保存できるのである程度の量まとめて作る。
・寿司飯に混ぜる青菜などの具材は、寿司飯が冷めてから混ぜる。熱いうちに混ぜると青菜が変色する。
・寿司飯が水っぽくならないように注意する。刻んだ青菜類や酢蓮は、水気を十分に除いてから混ぜる。
・具材を混ぜる順番は寿司の素、錦糸卵のみじん切りと木の芽のみじん切り、酢蓮と青菜の順にすると混ざりやすい。
「春菜寿司」
【材料(4〜5人分)】・米 3合
・寿司酢 100~120cc(好みで加減する)
作りやすい分量:米酢450cc、砂糖180g、塩70g、昆布8g
(材料をすべてボウルに入れてラップし、そのまま一晩おく。翌日、昆布を取り出して泡立て器で混ぜ、砂糖と塩を溶かす。瓶やペットボトルで常温保存できる)
・寿司の素
干ししいたけ50g、ごぼう250g、サラダ油適量、干ししいたけのもどし汁400cc、濃口醤油大さじ1と小さじ1/2、たまり醤油大さじ1と1/3、砂糖大さじ2と小さじ1/2
・寿司飯に混ぜる具材
木の芽(みじん切りにする)10g、ふき50g、三つ葉50g、せり50g、酢蓮(「
新れんこんの甘酢漬け」参照)50g、錦糸卵みじん切り(上にのせる具材の残り)20g
・寿司の上にのせる具材
錦糸卵 卵4個、焼き海苔(もみ海苔にする)1枚、木の芽10枚、生姜の甘酢漬け(「
生姜の甘酢漬け3種」参照)15g、酢蓮(「
新れんこんの甘酢漬け」参照)20g
※追加具材の春野菜は、下記の材料を参考に好みで
・「
たけのこの煮もの」参照
・わらびの漬け出汁漬け「
春菜の酢のもの」参照
・つくしの漬け出汁漬け「
春菜の辛子白和え」参照
・「
そら豆の翡翠煮」参照
・菜花の漬け出汁漬け「
わらびと新春野菜の酢のもの」参照
・きぬさやの漬け出汁漬け「
きぬさや3種 ひたし、ごま和え、酢のもの」参照
・「
アスパラガスの塩麹和え」参照
・「
伽羅蕗(きゃらぶき)」参照
・甘露しいたけ「
きゅうりとしいたけの合い混ぜ」参照
・揚げたらの芽の漬け出汁漬け「
春菜の酢のもの」参照
・煮かんぴょう「
煮かんぴょうの海苔巻」参照
・高野豆腐の煮もの「
高野豆腐の冷ややっこ」参照
・蒸しゆり根(塩をふる)「
ゆり根きんとん Christmas ver.」参照
・紅くるり甘酢漬け「
紅くるりの揚げごぼうとナッツのせ」参照
・にんんじんの梅煮「
金時にんじんの梅煮」参照
【作り方】1.寿司の素を作る。干ししいたけは砂糖(分量外)を少量加えた水にひたして、冷蔵庫などの低温下で最低1時間以上もどす。しいたけがもどったら、もどし汁と分ける。もどし汁は砂などが混じっている恐れがあるので、一度クッキングペーパーでこす。しいたけは石づきの部分を切り取り、笠と軸を切り分ける。
2.ごぼうはたわしで洗い、5mmほどの厚みで断面が5cmほどの長さになるよう斜めに切る。鍋に湯をたっぷり沸かしてごぼうを入れ、3分ほど茹でてざるに上げる。この下処理で土臭さとえぐみをほどよく除く。
3.干ししいたけ(笠と軸)とごぼうを、それぞれフードプロセッサー(ミキサーでもよい)にかけてミンチ状にする。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
4.鍋を火にかけ、サラダ油をひいて3を入れて炒める。油がなじんだら干ししいたけのもどし汁とすべての調味料を加えて煮つめるように炊いていく。煮汁が少なくなったら火を弱め、木べらで混ぜながら炒めるように水分をとばしていく。汁気がなくなったら火からおろす。
5.寿司飯を作る。米は炊く30分以上前にといで、ざるに上げておく。通常の水加減より1割少ない水で炊く。
6.飯切り(はんぎり・寿司桶のこと)の内側としゃもじを水で十分に湿らせ、布巾で拭いておく。飯切りがない場合は大きめのボウルでよい。ご飯が炊き上がったら、飯切りまたはボウルに移して寿司酢を全体にかけ、しゃもじを横に使って切るように酢を合わせていく。うちわがあれば、あおぎながらやるとよい。「
野菜のにぎり寿司」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。酢が全体になじんだら、まわりについた米粒も合わせて、寿司飯を片側に寄せる。水で洗い堅く絞った布巾を寿司飯にかぶせ、ご飯が寄せてあるほうを上にして飯切りまたはボウルを傾け、余分な酢が流れるようにする。
7. 錦糸卵を焼く。全卵をよくといて目の細かいざるでこして均一にする。塩(分量外)を少々加えて混ぜ、錦糸卵を焼く。焦げやすい縁の部分を除いて3.5cm長さのなるべく細いせん切りにする。縁の部分はみじん切りにして寿司飯に混ぜる。
8.ふき、三つ葉、せりはそれぞれ茹でて水に放し、冷めたら水気をきる。ふきの茹で方と皮・筋のむき方は「
ふきの煮もの、富貴飯」参照。ふきは金串や竹串で裂いて麺状にし、1cm長さに切る。「
ふきのひたし、梅煮、伽羅蕗(きゃらぶき)」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。三つ葉は1cm長さに切る。せりは先の柔らかいところは1cm長さに切り、太い茎の部分は小口切りにする。ふき、三つ葉、せりをそれぞれクッキングペーパーで包んで押さえ、水気を除く。酢蓮は1cm四方に切り、クッキングペーパーで包んで押さえ、水気を除く。
9.寿司飯が冷めたら寿司の素を混ぜ、次に錦糸卵のみじん切りと木の芽のみじん切り、最後に酢蓮と8の青菜類を加え、しゃもじで飯粒を潰さないように混ぜる。しゃもじで混ぜるのが難しいようなら調理用手袋をつけて手で混ぜてもよい。
10.9を器に盛って表面を平らにし、全体に錦糸卵を広げ、何箇所かに分けてもみ海苔を盛る。好みの具材をそれぞれ一口大に切って色のバランスを考えながら盛り、最後に木の芽を散らす。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。