親日家のジル・マルシャルさん。「ともにガストロノミーの伝統と文化を大切にしている日本とフランス。この25年で、日本の小麦粉やバター、クリームなどの素材が素晴らしく良くなったのも印象的です」
今、最も世界で注目されているパティシエ、ジル・マルシャルさん。フランス随一のスイーツの魔術師といわれる彼に、菓子への想いやフランス菓子のこれからをじっくりとお伺いしました。その華やかな軌跡をオリジナルスイーツで辿る、スペシャルフェアも開催中です。
全てはロレーヌ時代の幸せな食卓から
「オテル・ド・クリヨン」「ホテル プラザ アテネ」「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」……。パリを、フランスを代表する華やかなパラスホテルやメゾンで研鑽を積んだジル・マルシャルさん。「世界の優れたパティシェ
10人」に選ばれるなど、今やフランス菓子界の顏ともいえる存在です。ときには鮮やかなグランデセールで、ときにはシンプルで素朴な焼き菓子で人々を魅了するジルさん。そのルーツは、さまざまな「美味しい」に恵まれたロレーヌ地方の少年時代にあったようです。
「家族みんなが食べることが大好き、食いしん坊な一家だったんです。毎日の料理は父の担当で、お菓子は母や祖母が作ってくれました。フランスの家庭では、食事の最後にみんなで分けられるようなデザートをたっぷり出すのが一般的ですから、イル・フロッタントやムース・オ・ショコラなんかを、家族みんなで賑やかに囲んだものですよ」。なかでも、お祖母さまとお母さまが作ったマドレーヌは想い出の味。幸せな時間の象徴として、ジルさんはパリの自らのパティスリーの包み紙やドアノブのモチーフにもマドレーヌをチョイス、シグネチャースイーツの一つにもなっています。
ショコラ販売の営業に携わるお父さま(「僕はこっそり、そのショコラをつまみ食いしていたんだよね。中に入ってたノワゼットが美味しかったんだ。父? 黙認してた気配(笑)」)、パリでレストランを経営する叔父さま、地元の町でレストランを営む名付け親、と何よりも食環境に恵まれていたジルさん。移動パン屋さんでのアルバイトなども経験し、迷わずお菓子の道に入ったのは
15歳のことでした。
パリ・モンマルトルにあるパティスリー「ジル・マルシャル」は、マドレーヌがモチーフのドアノブが目印。店内にはクラシックな焼き菓子をはじめ、各種ガトーやショコラなどが並んでいます。