現在「ハイアット リージェンシー 東京」で開催中のフェアでは、「ホテル・ル・ブリストル」時代に誕生させたスイーツがコース仕立てで登場。「アルレットと軽いバニラのクリーム フランボワーズ」(左奥)はアヴァンデセールに。出来たてのサクサク感を楽しんで。
基本と伝統を体得しなければ、創造力は生まれない
「修業の辛い思い出は、全部忘れてしまいました(笑)」とおっしゃるジルさんですが、最初の修業先で出会った師匠クロード・ブルギニオン氏の姿勢が、その後のパティシエ人生に大きな影響を与えます。
「たとえば、きちんと生地を作れないと、次のステップには進めない。でも師匠は、待ってくれる忍耐強さ、そしてきっと成功するよ、と支えてくれる寛容さを持っていました。第二の父ですね。基本も伝統も、自らのノウハウすべてを伝えようとする情熱も素晴らしかった。今の自分があるのは、あの日々があったからだと思います」
80年代後半からパリの「オテル・ド・クリヨン」を皮切りに、一つ星レストラン「プリュミエ」、「プラザ アテネ」「ホテル・ル・ブリストル・パリ」、「メゾン・デュ・ショコラ」と、経験を積み重ねていきます。この華々しいキャリアはすなわち、スイーツのオールラウドプレイヤーとして腕を磨いたということ。レストランのデザートとしてのアシェット、テイクアウトからコースのデセールまで幅広い対応が求められるホテル、独特なテクニックが必要なショコラの仕事…・・・。
フェア開催中は、テイクアウトスイーツ各種もお目見えします。「オペラ」は一口食べると、コーヒーの香りがふんわり広がる名作。フランス本店でも大人気です。
どの分野でも輝くばかりの才能を発揮したジルさんの名声は広く知られることとなり、「ル・ブリストル」在職中の
2004年にはフランスで「今年のシェフパティシェ」に、
2009年「メゾン・デュ・ショコラ」時代には「フランスの優れたショコラティエ」にも輝いています。
そして
2014年、パリ・モンマルトルにご自身の店「ジル・マルシャル」を開店。その激動の日々のなか、ジルさんは常に2つの想いを心に刻んでいました。
学んだことはそのままにしない。
伝統は次世代に伝えていかなくてはいけない。
「学んだ知識や技術を糧として、さらにそれ以上の、より良いものを作らなくては意味がない。伝統や基本も体得していなければ、アレンジすることも崩すこともできません。自分のスペシャリテのひとつである『アルレット』のプレートも、今回のフェアに登場していますが、パイ生地アルレットは元祖・ルノートルさんのレシピそのまま。そこから、あのカリカリ食感を生かせる食材は何か、と僕なりに考えていくのは楽しいプロセスです。クラシック菓子『オペラ』も生地にひと工夫していますよ」。どちらも手間がかかるため、最近はきちんと作る――作れる職人が少なくなってしまったのだとか。伝えたい、という想いもフェア登場の背景に感じられます。