漢方の知恵と養生ですこやかに 第5回(01) 自然界の陽気が力強く上昇し、山々も野原も緑に染まる5月。人の「気」も上へ上へと昇り、心のバランスが崩れがちな季節でもあります。「五月病かな?」と思ったら、公園や野山に出かけたり、ゆったりとティータイムを。新緑や新茶の香りが「気」を巡らせ、私たちをリラックスさせてくれます。
前回の記事はこちら>> 陽気が勢いよく立ち上り、若葉が萌える季節
人の「気」も上昇し、不安定に。新緑が癒やす「五月病」
〔解説してくださるかた〕横浜薬科大学客員教授・薬学博士 漢方平和堂薬局店主 根本幸夫先生1947年生まれ。1969年東京理科大学薬学部と東洋鍼灸専門学校を同時に卒業後、さらに鍼灸と中国医学を学ぶ。「普段の生活こそが治療の場」をモットーに、漢方平和堂薬局(東京都大田区)では多くの人々の健康相談にのり、養生法をベースに漢方薬処方を行う。(社)日本漢方連盟理事長。前・横浜薬科大学漢方和漢薬調査研究センター長。著書多数。勢いのある自然の陽気につられ、体の「気」も上がったまま
若葉が一斉に萌え出す5月には、新緑の香りを乗せた「薫風(くんぷう)」がさわやかに吹いてきます。この頃の葉の大事な役目は、実をつけるために必要なエネルギーを光合成によって活発に作り出すこと。そのため力強く若々しい植物ホルモンが、自然界の陽気の上昇とともに分泌されるのです。
若緑から深緑へ――。遠くに望む山々の緑が日に日に濃くなる様子を「山が膨らんだ」「山が深呼吸をしている」と表現する人がいます。「薫風でゆらめく山の緑を見ていたら酔ってしまった」という人も。それくらい5月の陽気には勢いがあり、人の「気」にも少なからず影響を及ぼします。
中国医学における「気」は人体を構成する基本要素の一つで、生命エネルギー(狭義では精神的エネルギー)をさします。「気」が自然の陽気の上昇につられて頭に上り、そのまま下がってこなくなるので、気持ちも不安定になりがち。特に新年度に伴う職場や学校、家庭の環境変化などを強いストレスに感じると心のバランスを崩し、いわゆる「五月病」を生じやすくなります。