プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> ちしゃもみ
「ちしゃもみ」という料理をご存じでしょうか。広島県のほぼ全域、山口県、岡山県、香川県などの一部で食べられる郷土料理です。山口県では「ちしゃなます」とも呼ばれます。ちしゃを塩を入れた酢でもみ、味噌や酢味噌、醤油で和えて、ちりめんじゃこや焼いた塩鯖、煮干し、いかなごなどを混ぜます。
一時期、この郷土料理が消滅したと言われました。ちしゃは、昔は多くの場所で栽培されていましたが、だんだん入手が困難になり、ちしゃの代わりにサニーレタスが代用されるようになります。ちしゃもみという名前は残っていても、昔、食べられていたちしゃもみは、存在しないということになったのです。
サニーレタス。ちしゃとはキク科の野菜で、ちぢれが強い非結球型の葉レタスに分類されます。レタスの和名であり、総称でもあります。奈良時代に中国から伝来し、当時は生食ではなく茹でるなどして食べられていたようです。
戦後、玉レタスが普及すると、ちしゃの栽培量はどんどん減っていきましたが、近年の韓国料理ブームで焼き肉をサンチュで包んで食べることが広まり、再び栽培量が増えています。
茎の下のほうから生えてくる葉を掻(か)きとって収穫するので、かきちしゃとも呼ばれます。水耕栽培のものは通年出回っていますが、露地栽培のものは5月頃が旬です。ちしゃにはサンチュ(韓国名。和名:包み菜、掻きちしゃ、茎ちしゃ)の他にも、サラダ菜やロメインレタス(和名:たちぢしゃ)などが含まれます。
料理屋のおせち料理に入っていることがある「ちしゃとう」は、茎ちしゃ(ステムレタス)の仲間で、漬けものや和えものに用いる乾物の「山くらげ」は茎ちしゃを干したものです。ちしゃとう、山くらげの料理も今月紹介する予定です。ご期待ください。
今のように苦みを含む野菜のサラダなどを食す習慣がなかった昔の日本人は、ちしゃがもつ特有の苦みとあくを嫌い、塩で軽くもんであくを出して調理したのでしょう。それがちしゃもみという料理の名の由来にもなっています。今日は手に入りやすいサニーレタスを使ってちしゃもみを作ります。酢のものとサラダの中間のような料理で、とてもおいしいです。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「ちしゃもみ」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・食べる直前に柚子こしょう入りの土佐酢で和える。和えて時間をおくとレタスから水分が出て食感も悪くなる。
・土佐酢を柚子こしょう入りの酢味噌に替えてもよい。
「ちしゃもみ」
【材料(2人分)】・サニーレタス 40g
・ブロッコリーの茎部分 30g
・サラダ油 少々
・塩 少々
・油揚げ 1/3枚
・みょうが 1個
・カシューナッツ(粗く刻む) 適量
・土佐酢柚子こしょう風味 適量
土佐酢(出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合)30cc、柚子こしょう4g
【作り方】1.サニーレタスは食べやすい大きさに手でちぎるか、包丁で切る。冷水につけてしゃきっとしたら水気をよくきる。
2.油揚げはオーブントースターでこんがり焼いて、5mm幅×3cm長さに切る。みょうがは縦に半分にして薄切りする。
3.ブロッコリーの茎部分は白い繊維が残らないように分厚く皮をむいて、5mm角×3.5cm長さに切る。フライパンを火にかけてサラダ油をひき、ブロッコリーを入れて炒め、薄く塩をふって下味をつける。
4.ボウルに土佐酢と柚子こしょうを入れて泡立て器でよく混ぜる。
5.別のボウルにサニーレタスと油揚げ、みょうが、ブロッコリーの茎を加えて混ぜる。4を適量加えて和え、器に盛る。4のボウルに残った土佐酢をかけ、カシューナッツを散らして供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗