春若いもと春菜・ラズベリーの酢のもの、木の芽みたらし、実山椒味噌かけ
春掘りの長いもを使った酢のもの、甘味、煮ものを紹介します。長いもや山いもは、生で食べられる世界でも珍しいいもです。消化酵素であるジアスターゼを含んでおり、でんぷんの一部が分解され、生で食べても胃にもたれません。
山いもが旨みと風味が強く、濃厚で粘りが強いのに対して、長いもは水分が多く、粘りが少ないのであっさりしています。山いもに比べて、低カロリーで糖質が少なくヘルシーともいえます。
長いもは火の入れ方によって、サクサクからホクホクへと食感が変わります。酢のものではサクサク食感を生かし、煮ものはホクホクに炊き上げます。甘味は、外はカリッ、ホク、中はサクサクのままに。
今日の料理では、長いものことを春若いもと呼んでいます。若々しくエネルギーがあふれるような春若いもという呼び方が私は大好きです。この名が使われている例をネット検索してみると、予想したとおり、吉兆系の料理屋で修業した方々の記事ばかりでした。
ただ残念なことに、春若いもは長いもの別称という以外に何の説明も加えられていません。春若いもとは「春掘り」の掘りたての長いもという意味です。長いもは貯蔵性に優れ、年間を通して店頭に並びますが、実は旬が年に2回あります。春に植えて11月初旬〜12月にかけて収穫する「秋掘り」(全体の約6割)と、雪解け後の3月〜4月に収穫する「春掘り」(全体の4割)です。
「秋掘り」はみずみずしくて皮も薄く、ひげ根をガスのじか火であぶれば皮ごと食べられます。「春掘り」は旨みが凝縮され、濃厚な味わいがあります。そして、秋掘りから春堀りへの切り替え時期が今、5月頃なのです。
カットして売られている長いものおいしい部位の選び方は「
長いものわさび漬け、梅焼き」で既にお話ししましたね。なるべく太いもの(養分が一番蓄えられ繊維も細い)で、切り口が白くみずみずしいものを選びます。表皮が肌色で張りとつやがあり、ひげ根が取れずに残っているものが新鮮です。ただし、元からついているひげ根の量が少ないほうが、あくも少ないようです。
長いもには消化酵素が多く含まれていて、胃腸の働きを助けます。栄養価が高いので「山うなぎ」と呼ばれるほか、中国では「山薬(さんやく)」とも呼ばれ滋養強壮の漢方薬に配合されています。“山いも”食べると“病(やまい)も”治る(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「春若いもと春菜・ラズベリーの酢のもの」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・食べる直前に具材をラズベリー酢で和える。時間がたつと食感が失われ、味のメリハリもなくなる。
・「春若いもの木の芽みたらし」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・春若いもは200℃くらいの高温で一気に表面だけを揚げて、真ん中部分はサクサクの食感を残す。
・たまり醤油は商品によって塩分濃度に大きな差がある。今回使ったたまり醤油は100ml当たり16.8gの塩分だが、使用する醤油の塩分表示を見て量を変える。
・揚げた春若いもは食べる直前に、みたらしたれをからめる。からめて時間がたつと春若いもから水分が出る。
「春若いもの実山椒味噌かけ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・春若いもは味が抜けないように、下茹でではなく、蒸した後に炊く。
「春若いもと春菜・ラズベリーの酢のもの」(左)
【材料(3人分)】・春若いも 100g
・新れんこん 80g
・うど 60g
・酢 適量
・ラズベリー酢
ラズベリー130g、オリーブオイル20cc、ラズベリービネガー(市販品)40cc、塩3g 、砂糖10g、こしょう少々
【作り方】1.春若いもは皮をむいて、1.5cm×3.5cm×2mm厚さに切って水に放し、流水でぬめりを洗い流してざるに上げる。クッキングペーパーで水気を除く。うどは茎の部分を使う。皮を厚めにむいて1.5cm×3.5cm×2mm厚さに切る。水でさっと洗ってクッキングペーパーで水気を除く。
2.新れんこんは皮を薄くむいて、大きさに応じて2mm厚さの半月切りか銀杏切りにする。鍋に湯を沸かして酢(湯1Lに対して酢大さじ2)を加える。れんこんを食感が残るくらいに茹でて水に放し、冷めたらざるに上げてクッキングペーパーで水気を除く。
3.ラズベリー酢を作る。ボウルに塩、砂糖、こしょうを入れ、ラズベリービネガーを加えて泡立て器でよく混ぜる。オリーブオイルを少しずつたらして泡立て器で攪拌する。指で小さくほぐしたラズベリーを加えてゴムべらで均一に混ぜる。
4.春若いも、うど、新れんこんを3のボウルに入れてよく和え、器に盛る。
「春若いもの木の芽みたらし」(右下)
【材料(3人分)】・春若いも 80〜100g
・揚げ油 適量
・たまり醤油(塩分16.8g/100ml) 7g
・砂糖 14g
・木の芽 適量
【作り方】1.春若いもは皮をむいて1.5cm角×4cm長さに切る。水に放して流水でぬめりを洗い流し、ざるに上げてクッキングペーパーで水気を除く。
2.フライパンに揚げ油を入れ、油温を200℃に上げる。
3.春若いもを揚げ油に入れ、表面がきつね色になるまで30秒ほど揚げる。均一に揚がるように、春若いもを油の中で手早く返しながら一気に揚げる。
4.鍋に砂糖とたまり醤油を入れてよくかき混ぜ、中火にかける。沸いてきたら、焦げないように弱火にして、揚げた春若いもを入れ、たれが全体にからむように箸で返す。「
生麩のみたらし」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」も参照。
5.たれがからんだら春若いもを取り出して器に盛り、枝を外して葉のみにした木の芽をふりかける。
「春若いもの実山椒味噌かけ」(右上)
【材料(3人分)】・春若いも 150g
・出汁 300cc
・日本酒 大さじ2
・砂糖 小さじ1
・塩 1.5g
・薄口醤油 小さじ1
・玉味噌(白) 50g
作りやすい分量:西京味噌500g、卵黄5個、砂糖30g、日本酒200cc 「
生姜味噌」参照
・実山椒 5g(下処理の方法は作り方の最後にあります)
【作り方】1.春若いもは2.5cm厚さの輪切りにして皮をむく。大きければ半分に切る。
2.切った春若いもを耐熱皿に並べて沸いた蒸し器に入れ、柔らかくなるまで15分ほど蒸す。水に放して流水で表面のぬめりを洗い流し、乾いた布巾で水気を除く。
3.鍋に蒸した春若いもを入れ、出汁を注いで火にかける。すべての調味料を加え、沸いたら弱火にして10分ほど炊いて火からおろし、そのまま30分以上味を含ませる。
4.実山椒味噌を作る。下処理し茹でて水にさらした実山椒の水気をクッキングペーパーでよく除いて粗く刻む。玉味噌を耐熱容器に入れ、実山椒を加えて電子レンジで温める。
5.3の春若いもを再度火にかけ、温め直して器に盛る。温めた実山椒味噌をのせて、実山椒(分量外)を少々散らして供する。
※生実山椒の下処理1.生の実山椒は5月の短い期間にしか出回らないので、1年に使う分量をまとめて買い求め、下処理して冷凍保存する。
2.実を1粒指でつぶしてみて、中の種の皮が黒くなっていない若い実山椒を選ぶ。実についている枝を丁寧にはずす。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
3.鍋にたっぷりの湯を沸かし、実山椒を入れて5分ほど茹で、指の腹でつぶれるくらいになったら冷水に放す。
4.途中で水を替えながら、1時間ほど水にさらし、好みの辛みになったらざるに上げて水気をきる。保存する場合は、小分けして保存袋などに入れ、水を加えて冷凍する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。