新ごぼう飯、味噌汁、焼きオクラもろみ和え
葉ごぼう(「
葉ごぼうの炒め煮」)が終わり、少し前から新ごぼうが出回り始めました。新ごぼうは早採りした若い細めのごぼうで「春ごぼう」、「夏ごぼう」とも呼ばれます。全体的に白っぽく、長さも30~60cmと短めです。
おもに九州など温暖な地域で栽培され、早いものは春前から出荷されますが、元々は初夏に収穫されていました。露地物の旬は4月〜6月頃です。
新ごぼうは完全に成長しきっていないためあくが少なくて柔らかく、優しい風味がします。火の通りが早く調理しやすく、一般的なごぼうのように煮ものやきんぴらにしてもおいしいですが、さっと茹でてサラダにすることもできます。冬に紹介した叩きごぼう(「
たたきごぼう」)にするなら、ごまの量を減らして、ごぼうの風味を生かすとよいでしょう。天ぷらやかき揚げ、柳川鍋にしても、新ごぼうならではの風味が楽しめます。
ごぼうといえばあく抜き、という思い込みを考え直していただくように「
ごぼうの旨煮、国師ごぼう(山椒味噌煮)」でお話ししました。ごぼうの香りや旨みは主に皮の部分に含まれるので、土をたわしで洗い落とす程度にし、包丁の背で皮をこそげ取ったりしないでください。あくというと聞こえが悪いですが、ごぼうのあくは山菜などと違い、味を損なうほどではありません。その後の調理でこくや深みに変えることができるのは、既にお教えしたとおりです。
変色防止のために酢水につけたり、水にさらすのは、単に色をきれいに仕上げるためで、強い抗菌力と抗酸化作用があり、風邪や老化の予防などの効果も期待できるポリフェノールが溶け出してしまいます。また酢水に10分つけるとカルシウムとアミノ酸は約1/3、カリウムは約1/4が溶け出してしまいます。新ごぼうはあくが少ないので、水にさらさずに調理しても大丈夫です。変色が気になるなら、すぐに加熱することです。
今日、紹介するのは新ごぼうの風味を生かしたごぼう飯とごぼう汁です。どちらも江戸時代には既にあった料理ですが、ごぼうではお客さまからお金がいただきにくいということもあるのか、一般的な料理屋では出さないメニューです。今の時期だけ味わえる最高(最香)の飯、汁なのですが……。ということで、今日は見せ方を工夫します。
時を経て古いものが新しく感じられることがどの世界でもあります。今回使ったお椀は江戸時代の意匠です。なんと斬新なのでしょう。初めて見た時、映画『キルビル』(クエンティン・タランティーノ監督・脚本)の主人公の衣装を思い出しました。鬼才タランティーノにならい、過去の名作へのオマージュも込めて、“地味”な新ごぼうを“滋味”あふれる風味豊かな逸品にします。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「新ごぼう飯」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・
新ごぼうは、飯を炊く直前に笹がきにすると、変色せず、香りもよい。
・他の色飯のように油揚げを加えて炊くのではなく、
仕上がりに揚げごぼうを添えて食感と油分を追加する。
・「新ごぼうの味噌汁」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・
新ごぼうは味噌汁が80℃くらいになってから加え、食感と風味を生かす。
・
味噌汁のコツは「沸かさない」「煮えばなを手早く供する」「温め直さない」。「
ゆり根白味噌仕立て」も参照。
・「焼きオクラもろみ和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・
オクラは茹でるのではなく、油で炒めることで全体の味に深みを出す。
・炒める際に、赤唐辛子を加えて辛みをたしてもよい。
「新ごぼう飯」(左)
【材料(2〜3人分)】・米 2合
・新ごぼう(具材用) 160g
・新ごぼう(揚げごぼう用) 15cm
・揚げ油 適量
・新生姜(細めのせん切りにする) 30g
・昆布出汁 360cc
・塩 5g
・日本酒 大さじ2
【作り方】1.米を炊く30分以上前にとぎ、10分ほど水につけた後、ざるに上げておく。
2.具材用の新ごぼうは笹がきにする。笹がきのやり方は「
ひじきの炒め煮、おからの酢炊き」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
3.揚げごぼうを作る。新ごぼうは5cmに切って櫛刃をつけたスライサーで2mm角×5cm長さのせん切りにし、さっと水で洗って水気をきる。フライパンに揚げ油を入れ、150〜160℃に熱してごぼうを入れる。きつね色にカラッと揚がったらクッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
4.昆布出汁(飯の炊き上がりの堅さの好みで量を加減する)に調味料を加え、好みの味にする。
5.炊飯器に米と新ごぼうの笹がき、新生姜を加えてスイッチを入れる。
6.炊き上がったら飯をふんわりと混ぜて器に盛る。揚げごぼうのせて供する。
「新ごぼうの味噌汁」(右)
【材料(2人分)】・新ごぼう 60g
・油揚げ 1/4枚
・出汁 340cc
・赤出汁味噌(好みの味噌でもよい) 適量
・花椒(かしょう)スプラウト (好みで) 適量
【作り方】1.新ごぼうは4cmに切って櫛刃をつけたスライサーで1〜2mm角×4cm長さのせん切りにする。
2.油揚げは2mm幅×3cm長さのせん切りにする。
3.鍋に出汁を入れて火にかけ、80℃くらいになったら赤出汁味噌を溶き入れて、新ごぼうと油揚げを加える。味噌汁が90℃を超えたくらいで火からおろし、椀に盛って花椒スプラウトを添える。
「焼きオクラもろみ和え」
【材料(2人分)】・オクラ 4〜5本
・サラダ油 適量
・塩 少々
・もろみ 適量
【作り方】1.オクラはヘタ部分を切り、堅いがくを包丁でむいて除く。
2.フライパンを火にかけ、サラダ油をひいてオクラを入れる。全体が均一に焼けるように箸で転がしながら焼く。火が通り表面に少し焼き目がついたら、薄く塩をふって火からおろす。
3.オクラを一口大に切る。もろみで和えて器に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。