もう一足は、横浜で見つけたブルー・スエード・シューズです。
ちょうど「ブルー・スエード・シューズ」という曲が流行しているときで、僕はエルヴィス・プレスリーがカバーしていた曲が大好きだったんです。それが、横浜の馬車道にある靴店のショーウインドーに飾ってあったのです。サイズも何も関係なく、月収の半分ぐらいしたけれどもすぐに買いました。
これも、結局履けませんでしたね。50年以上経っているから、今では青が変色して、紺色から黒に変わっている。それでも、見れば、「何をされても構わない。俺のブルー・スエード・シューズだけは踏むなよ」みたいな歌詞をぱっと思い出すんです。同時に、当時の横浜の風景なんかが映画のシーンのように浮かび上がってきます。だから、値段に関係なく、それぞれガラクタには思い出があるので、ランクをつけられないのです。
「モノとの出会いは一期一会。モノのほうが僕の襟首をつかまえる」国内外で出会い、何十年もの間に集まった歴代の帽子たち。出かけるときは帽子を被ることが多いそう。季節ごとに揃っている。『捨てない生きかた』(マガジンハウス刊)何年も着ていない服や、古い靴、鞄、本、小物たち。一見、何の役にも立たないように見える愛着のある「ガラクタ」こそ、後半生を豊かに生きるために大切にすべき回想の友であると提言。捨てる身軽さより、捨てない豊かさに気づかされる、コロナ以降の新時代の生きるヒントが詰まっている。
『捨てない生きかた』Amazon販売ページはこちら>> 五木寛之(いつき・ひろゆき)
1932年福岡県生まれ。作家。早稲田大学ロシア文学科中退。66年デビュー作の『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞ほか、受賞作多数。近著には第64回毎日出版文化賞特別賞を受賞した『親鸞』など、仏教に関心を寄せた著作が多い。
[特別インタビュー]この混迷する時代に 五木寛之への10の質問
01
“捨てない生きかた”に至ったきっかけは?02
モノとの出会いは一期一会。
この特集の掲載号
『家庭画報』2022年6月号
撮影/伊藤彰紀〈aosora〉(人物) 本誌・大見謝星斗(静物) 取材・文/小倉理加
『家庭画報』2022年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。