Q9 東日本大震災やコロナ禍など、この10年ほど未曽有の出来事が続いていますが、先生に変化をもたらしたものはありますか?
五木 特にありません。僕にとっては、敗戦が最もショックな出来事で、戦後はすべてその影がついて回り、支配されてきたからです。コロナ禍で朝型になりましたが、それも環境に適応しただけです。
“捨てる”ということでいえば、東日本大震災の後に絆を取り戻そうというブームが起こったときには、時代が変わったなと思いました。寺山修司や立松和平など、僕らの世代の考え方としては、地縁、血縁を切って、いかにして東京砂漠に出てくるかという考え方がありました。絆の本来の意味は、動物や家畜を逃げないように縛りつけておく綱のことです。絆は、心強いと同時に非常に重荷にもなるものだったのですが、ずいぶん変わったものだと感慨深かった思い出があります。
Q10 この書籍で伝えたいメッセージは?
五木 今までも、『生きるヒント』など、さまざまな著書を書いていますが、この本を含めて、生き方の手引きを示そうとしているわけではありません。モノを“捨てる”“捨てない”は、糸口でしかありません。そこを入り口にして、廊下を通った先にある“捨てる”ことの先につながる命や社会が抱えている大テーマに自然と歩み寄っていけるきっかけになれば嬉しいです。
「命、文化、国……。世の中は決して捨ててはいけないものに溢れています」 撮影/伊藤彰紀〈aosora〉(人物) 中本徳富 取材・文/小倉理加
『家庭画報』2022年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。